はやてのバレンタイン


  




その日、はやては朝から忙しそうにしていた
「えっと、これとこれと、あとは・・・」
「・・はやて、なにしてんだ?」
「ヴィータか?悪いんやけど今日は遊んであげられへんねや」
「ううん、それはいいんだけど」
「ん?どないしたん」
「なに、やってるのかなって?」
ヴィータはそういってキッチンの周りを見渡した
そこにはいろいろな器具が置いてあった、ほとんど知らないものではあったが
その数から結構なものを作るのだということはわかった
「ああ、秘密や。明後日には分かるからそれまでちょう我慢してな」
「うん、はやてがそういうなら」


「ん?どうしたヴィータ。浮かない顔をして」
リビングで新聞を読んでいたシグナムがキッチンからでてきたヴィータにそう尋ねた
「なんか、はやての様子が変なんだ」
「主が?」
「ああ、なんか楽しそうにしてんだけどなにしてるか教えてくれねぇんだ」
「ふむ、だが主にも我らに言えぬことの一つや二つあるだろう」
「そうなんだけどさ・・」
「あら、何の話ですか?」
そんな二人の様子が気になったのか、洗濯をしていたシャマルが話しかけてきた
「主の様子が変だとヴィータが言っているのだ」
「はやてちゃんの?」
「ああ」
ヴィータは目線だけをキッチンのほうにやった
そこでは相変わらず忙しそうに動き回るはやての姿がある
「・・・ああ、そういえば明後日は2月14日でしたね」
「?それが関係あるのか」
ヴィータの問いにシャマルは当然という感じで話を続けた
「ええ、2月14日は”聖バレンタイン”、バレンタインデーといって女の子が好きな男の子にチョコを渡す日なんです」
「ほぉ、こちらではそんな習慣があるのか」
「ええ、なんでも最初はお菓子会社が企画したイベントだったらしいですけど」
「・・・・」
「では、相手はクロノ提督か?」
「案外学校のお友達かも」
「・・・・・・・」
楽しそうに話す二人と違い、ヴィータは納得のいかないような顔をしていた


その日の夕食時
「ヴィータ、どないしたん?」
「・・なんでもない」
「そか?なんやあんまり箸進んでへんから、おいしないんかと思て」
「そんなことない・・」
「・・・なら、ええんやけど」
「ごちそうさま」
ヴィータはそういって席を立った
「ヴィータ、まだ残っているぞ」
「うっせぇな、食欲ねぇんだよ」
そういってヴィータはさっさとリビングを出て行った
「・・すみません、主。ヴィータは少し体調が悪かったようです」
「ううん、ええんよシグナム、気にしてへんから」
「そう・・ですか?」
「・・・・・」
しかし、言葉とは裏腹にはやては不安そうな顔をしていた


「何だ、この気持ち」
「あたしは、はやてと一緒にいられればそれでいいんだ」
そういってヴィータはウサギのぬいぐるみを抱きしめた
「なのに・・なんなんだ、このもやもやとした変な気持ちは」


次の日、はやてはアースラへ来ていた
理由はもちろん・・・
「やっぱり、なのはちゃんはユーノ君に?」
「うん、でもはやてちゃんやフェイトちゃんにもあげるよ」
「アリサやすずかにも?」
「うん、いろいろと迷惑かけちゃってるし」
「そか、フェイトちゃんはクロノくんにはどういうの送るの?」
「え?」
「そっか、兄妹になったんだから、ちょっと違うよね」
「そ、そんなことないよ、別に、その・・・」
「何々、何の話?」
と、そんな会話が気になったのかエイミィが話しかけてきた
「バレンタインの話」
「ああ、そういえば明日だね、ならクロノくんにチョコは渡さないほうがいいよ」
「どうしてですか?」
「小さいときリンディ提督にチョコをもらったらしいの、で、ホットチョコレートだったみたいなんだけど・・・」
エイミィはそこで言葉を切った
「?どうしたのエイミィ」
「それを飲んだクロノくんいわくこの世の味じゃなかった、って」
「え?なんやそれ」
「リンディ提督のお茶の飲み方知ってるよね?」
「!!」
「?!」
「・・まさか」
皆、何か思い当たる節があるようで表情が固まった
「そ、それをチョコでやったわけ」
「・・・いったいどんな味なんだろう」
「・・でも、飲みたくはないよね」
「同感」

リンディ・ハラオウン。クロノとフェイトの母で前アースラ艦長
お茶(緑茶)を飲むときなぜか砂糖やクリームを入れるという不可思議な味覚の持ち主だ

「じゃあ、クッキーとか?」
「でも、私クッキーって作ったことない」
「なら、うちが教えてあげよか?結構簡単やで」
「いいの?はやてもいろいろ準備あるでしょ?」
「うちは昨日のうちに下ごしらえは済ましたからな」
「さすがだね、はやてちゃん」
「そないなことないよ、そだ、よかったらなのはちゃんも一緒にどうや?」
「うん、ぜひ教えて欲しい」
「よっしゃ、んじゃ早速準備開始や」
「「おー!」」
「青春だねぇ」
そんな三人を微笑ましく見守るエイミィだった


同時刻、アースラ艦内 クロノ私室
「・・事情は理解した、だが、なぜ僕のところに来る」
「いいじゃねぇか、知らない仲じゃないんだし」
「だったら、なのはたちでもいいじゃないか」
「あいつらだったらはやてに知られるだろうが」
「僕も知らせようと思えばできるんだが」
「でも、しねぇだろ」
「・・・・」
見透かされている。もしかしたら信用されているのかもしれないが
どちらにしろ嫌がるようなことをするつもりはなかった
「しかし、それに関しては考えすぎだと思うぞ」
「うっせぇ、お前にはわかんねぇよ」
「・・僕ははやてのことをもっと信頼しろと言いたいんだがな」
クロノの言葉にヴィータは片眉を吊り上げた
「あたしがはやてのことを信じてないとでも言いたいのか?!」
「そんなことは言ってない。ただ、一歩引いて見てみるのもいいのではないかという話だ」
「・・・・」
「君だって分かってるだろ?彼女が君たちのことをどれだけ愛しているかということを」
「・・・ああ」
「もし彼女にそういう相手がいたとしても、君たちのことも同じくらい愛せる相手を選ぶと思うぞ」
「・・・・・」
「ま、明日になれば分かるさ」
クロノはそう言うと机に置いてあった箱を取った
「ほら」
「?これは」
「チョコレートだ、もらい物で悪いが」
「嫌いなのか?」
「まぁ、苦手なのは確かだ」
「そうか・・」
ヴィータはそういってチョコをほおばった
少し苦くて、あまり好きな味ではなかったが不思議とおいしかった


翌日
「主、どうしたのですか?」
「うん、ちょお待っててな」
そういってはやてはキッチンの奥へ引っ込んだ
「いったい、なんでしょうね?」
「さあ?」
「お待たせ♪」
そういってリビングに戻ってきたはやては手に何かを持っていた
「これは・・」
「すげー」
「特製チョコレートケーキや」
そういってはやては自慢でもするかのように胸を張った
「えっと、今日は何かの記念日ですか?」
「記念日ゆうたらそうかもな、バレンタインやから」
「主、バレンタインとは好きな異性にチョコを渡すものではないのですか?」
「そやな、そういう意味合いもあるけど、感謝を表す意味もあるんやで」
「感謝?」
「せや、みんなが来てくれてうちはほんとに感謝してるんよ」
「みんながおらんかったらきっとうちは孤独なままやったと思う」
「主・・」
「そのおかげで、ちょっとすれ違いもあったけどなのはちゃんたちとも仲ようなれたし」
「はやて・・」
「家事なんかも結構助かってる部分あるんやで」
「はやてちゃん・・」
そこではやては一度言葉を切り、みんなを見てこう続けた
「今までありがとな、これからもずっと一緒にいような」
「・・・はやてぇぇ、ごめん、う・・ごめんなさい・・」
はやての言葉にヴィータは泣きながら謝った
「ちょ、ヴィータどないしたん、別にうちなんも怒ってへんよ?」
「うう・・はやてのこと・・ひぅ・・」
「ああ、もうええから、泣き止んでな、そやないとうちまで悲しなるやん」
「・・ごめん・・うう・・・ずっと・・一緒にいてくれる?」
そういうヴィータをはやては優しく抱きしめた
「もちろんや、うちのほうこそずっと一緒にいてな」
「うん・・・うん・・・」
「・・よかった、のだな」
「ええ、怖かったんでしょうね、またあのころに戻るのが」
「頭では分かっていても、過去を消すことはできぬからな」
「だが、今我らはここにいて、主が必要としてくれる」
「そうね、たとえなにがあっても、わたしたちははやてちゃんと一緒に」
「ああ、この命の限り仕え、護っていこう」
そして三人は泣き続けるヴィータとそれをなだめるはやてを温かい瞳で見つめていた


ちなみに、はやてに教えてもらってクッキーを作ったフェイトはというと
「あの・・クロノ、これ」
「ん?僕にか」
フェイトはコクンと首を縦にふった
「ありがと・・クッキーか」
「うん、クロノ、チョコは苦手だって聞いたから」
「そうか、じゃあ一口」
そういってクロノはクッキーを一つ口に放り込んだ
「〜〜〜〜〜〜〜?!」
「ク、クロノ?!どうしたの」
「・・・・フェイト」
「な、なに?」
「気持ちは・・嬉しいんだが・・できれば砂糖を使って欲しい」
「え?!間違えた?」
「ああ、とんでもなく塩辛い」
そういってクロノはお茶を飲んだ
「・・・・・ごめんなさい」
「んく・・・はぁ、いや、はじめてだったんだろうから大丈夫だ」
「でも・・・」
「いや、いいんだ。それにかなり頑張ったんだろう?」
「う、うん・・5回くらい失敗した」
「それだけ頑張ってくれたのなら文句はない。ありがとう、フェイト」
「う、うん・・・・クロノがそういってくれるなら」
クロノの言葉にフェイトは顔を真っ赤にしながらそういった
(でも、ちゃんとお砂糖って書いてあったんだけどな?)



「?!あちゃー、どうやら容器を間違えちゃったみたいね」
リンディはそう言うと持ってきた”塩”とかかれた容器を掲げた
「せっかくハーブの効いたタンドリーチキンを作ろうと思ったのに」
そういって、リンディはまるで羊羹のように甘くなってしまったチキンを流し台に捨てた





--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
 はい、というわけで犯人はリンディさんでした。
まぁ、それはさておいて。バレンタインネタです。
もうすぐバレンタインだなぁ、ということで書いてみたんですが
なんかごちゃごちゃになってしまって、誰がメインか分かりませんね(笑)
ホントはこれと平行してはやての絵も描きたかったんですが、時間が・・・・・(汗)





 
inserted by FC2 system