新たなる戦い、もう一つの時空管理局


  

第3話 平行世界




少女たちは一言も発する事が出来なかった
人間、突然の事態には大抵対処しきれないものだ。ほとんどの場合脳の機能が麻痺するか、パニックに陥るかのどちらかだ
彼女たちは前者のほうだった

「…」
「…」
「…」
「…」
そして、どれくらい経っただろう…その沈黙を破ったのはなのはだった
「あなたたちは…異世界の、人?」
「!…そう、なるかな」
「私たちからしても、だけど」
「そう、だろうね」
そして、それが引き金になったかのようにそれぞれ現在の状況を把握する
「どうやら、平行世界みたいだね」
「?どうして、そう言えるの」
「同じ次元、世界に同じ人間は存在しない…つまり別次元、もしくは平行世界」
「別次元なら景色が違うはず…だけど、ここは私たちの世界とよく似てる、だから平行世界」
「…」
「じゃあ、あなたたちの目的は?」
フェイトの言葉に二人ははっきりと、告げた
「私たちの世界に帰ること」
「それに、平行世界に長く留まれば、存在が希薄になっていく」
「希薄?…消えちゃうってこと?」
「正確には違う…なかったことになる」
「なかったこと?」
「そう…もともと存在していなかった、そんな人間は”いない”と世界に認識される」
「…」
「…」
二人の言葉はとてつもなく飛躍していて、何を言っているのか理解できない
だが、なのはとフェイトにはそれがなんとなく理解できた、なぜなら……
「いや、だよね…忘れられるのは」
「必要ないって、思い知らされたときの絶望感は、誰にも味わって欲しくない」

そう、二人には”孤独感”というある意味最も辛い体験をしていた
だから、相手の気持ちがよく分かる

「なら、手伝うよ」
「うん、そうだね」
なのはとフェイトは心からそう思った…クロノが何か言うだろうが
似たような気持ちを抱いているのなら、助けになりたい
しかし、思いがけない返事が返ってくる
「それは無理」
「え?どうして」
「管理局規定第1章6項、事故により多次元世界へ飛ばされた場合、極力その次元の人間と関わらないこと、
また、協力を仰がないこと」
「そういえば、そんなのもあったような」
「本来は今の状況も規定を侵していることになる」
「だけど、それじゃ…」
「これは、多次元に干渉しないことで、次元震やその他の事象を起こさないよう配慮しているもの」
「だから、あなたたちにもそれを守る義務がある」
「…」
「…」
彼女らの言葉は理解できた
確かに、なのは達は時空管理局の人間だ、規定は守らなければならない
さらには、多次元に干渉して余計な災厄を招く恐れがあるならば、それは避けるべきだろう
しかし……
「だからって、困ってる人を放っとけないよ」
「うん、一人では無理でも、助け合える相手がいれば何だってできる」
と、そこで突然地響きが起こった
「きゃ?!…何?」
「地震?」
「…あいつらもこっちに?」
「みたいだ…どうやらすでに干渉してしまったらしい」
そう言って二人は震源のほうを見る…そこには巨大な影が出来ていた
「な、なにあれ?!」
「原住生物?」
なのはとフェイトはおどろいているが、対照的にその生物と対峙している二人はそうでもなかった
「"BELTT"」
「え?」
「私たちの世界での戦争相手」
「あれが?」

"BELLT"と呼ばれる生物は咆哮し、向かってくる
「クラスC…特に強くはないけど」
グァァァッ!!
BELLTはその巨大な腕を二人めがけ振り下ろす
ドゴォォォォン!!
そこには巨大なクレーターが…しかし、そこに二人の姿はなかった
「力があるのが難点」
「そのうえ、結構すばやいし」
二人は宙に浮いていた、飛行魔法だろうがなのはたちとは少々勝手が違うようだ
デバイスを使用しないのもそうだが、まるでそこに”足場”があるように立っているのだ
「一気にやろう」
「うん」
二人は頷きあうとBELLTの両側に展開する
「すべてを抜ける優しき風よ、彼の者を縛る鎖となれ」
その言葉とともにBELLTの周りに風が巻き起こり、それは次第に一本の鎖へと変わっていく
グゥアァァァァ?!
そして、BELLTはその鎖に縛られ、身動きが取れなくなる
「雄雄しき風よ、その力によりて彼の者を裂く刃となれ」
その言葉とともに風が鋭い刃となってBELLTに襲い掛かる
グルゥァァァァッ?!
雄叫びとともにBELLTはその巨体を横たわらせた

「状況終了」
「ターゲット沈黙を確認」
そう言って二人は静かに地に降り立つ
「…」
「……」
それを見ていたなのはとフェイトは文字通り開いた口がふさがらない、という顔をしていた
そんな二人に静かに話しかける
「どうやら、すでに干渉を受けてるみたい」
「こうなると、私たちにも責任がある」
「…」
「…」
「よって、私たちはあなた方に持ちうる限りの情報を提供します」
「BELLTに対してのことはもちろん、我々についても」
その言葉に、ようやくなのはとフェイトは我に返る
「えと、それじゃあ」
「そちらの指揮官に連絡を取ってもらいたい」
「こちらの指揮官にも連絡を取っておく」
「あ、はい」
「連絡が取れたらこの場所に1300に」
「えっと、お昼の1時ってことで、いいのかな?」
「?こちらではそう言っているの」
「え、ええ、大体は」
「やはり、なんか違うところがあるみたいだね」
「まぁ、それについてはおいおいと、ってことでいいでしょ」
そう言って改めてなのはたちに向き直る
「そういえば自己紹介をしていなかったね、私は鳳すみれ」
「私はラピス・ピジョン」
「あ、えと…高町なのはです」
「…フェイト・T・ハラオウンです」
「とりあえずはまた後で、ってことになるね」
「その間に何もなければいいけどね」
そう言ってすみれとラピスはなのはたちに背を向け歩き出す
なのは達はそれを静かに見送った


その時、運命の歯車が回りだした
それは必然なのか、それとも偶然なのか…誰にも分からない
だが、彼女たちが出逢ったことでこれからの日々が今まで以上に過酷になることは決まっていた

神の悪戯か、それとも試練なのか
彼女たちの前に広がる闇は、確実に迫ってきていた…



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あとがき
 というわけで、オリジナル連載ss第3話”平行世界”です。
第2話で9月末に…とか書いておきながら10月入ってしまいました、すんません
あ、ちなみに最後のはもうちっと先の話です
ちょっとした小競り合い?みたいなのがこのあとしばらく続きます


     
 
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