ベルカの騎士と御神の剣士


  




「はあぁぁぁ!」
「せぇぇい!」
道場に気迫のこもった声が響く
それと同時に木刀がぶつかりあう音
「…さすがだ」
「そちらもな」
そう言言いつつ、適度の距離を空けて対峙しているのは高町恭也とシグナムだ
なぜ、こうなったか…それは小一時間ほど遡る

「あ、お兄ちゃん帰りなさい」
「ああ、ただいま…お客さんか?」
「うん、いつもお世話になってるの」
「そうか…えと、兄の恭也です、いつもなのはがお世話になっているようで」
そう言って恭也はソファに座っている女性に声をかける
「いえ、こちらこそ妹君には何かと助けていただいてます…あ、シグナムといいます」
「よろしく…そうですか」
「はい…ところで、あなたも剣を振るわれると聞いたのですが?」
「ええ、”小太刀二刀御神流”というものを」
「では…少々お手合わせ願えませんか?」
「え?」

ということで今に至る
「はぁ…はぁ…」
「どうした?もう息が上がったのか」
「…まだまだ」
(しかし、いったいどういう修行をすればここまで速く動けるのだ)
「悪いが、相手が手負いであろうと手加減をしないのが御神流だ」
「はぁ…ふ、望むところだ」
「では…行くぞ!」
「くっ?!」
言葉と同時に恭也は地を蹴る
と同時に両の手に持った木刀を目にも止まらぬ速さで繰り出す
「はっ!せいっ!」
「うっ、くっ?!」
左右から高速で迫る斬撃をシグナムはかろうじて捌いていく
だが、その速度は一撃ごとに速くなる
(くっ、まさかこれほどとは?!)
「どうした、反撃しないのか?」
「ふっ!…無茶を言う」
「…そうかな、君の実力はこの程度ではなかろう」
「……」
「…魔法とやらが使えなければ何も出来ないか?」
「!ならば、見せてやろう」
そう言ってシグナムは恭也との距離をとる
「魔法はあくまで補助に過ぎない…わが剣技、受けきれるか!」
「ぬっ?!」
「はあぁぁぁぁぁっ!」
言葉と同時にシグナムは地を蹴る
「せいっ!はぁっ!せいやっ!!」
「くっ、ぬっ?くうっ?!」
上下左右あらゆる場所からの斬撃が恭也を襲う
かろうじて受け切れてはいるものの、一つ一つの攻撃が重い
(ぬぅ?!この重さ、それにスピード…ふ、面白い)
「はぁっ!!」
「せいっ!!」
木刀が合わさった音とは思えない鋭い音が道場に響く

「はぁ…はぁ…」
「はぁ…ふぅ…」
互いに息が上がった状態で距離をとる
「なかなかやるな」
「そちらもな」
「…」
「…」
「そろそろ決めようか…」
「そうだな…」
二人はそう言って、互いに隙をうかがう
「……」
「……」
どれくらい経っただろう、一分、1時間、いや、数秒だったかもしれない
先に動いたのは恭也だった
「いくぞ!」
「?!」
そして恭也は地を蹴りシグナムに迫る
「はぁぁぁっ!」
「くっ?!」
右、左、上、下、あらゆる角度からの斬撃
「ぬぅ、くっ?!」
「…なかなかやる、ならば!」
「?!」
シグナムはとっさに距離をとる
それとほぼ同時、恭也は力強く地を蹴る
「薙旋!」
「くうっ?!」
強烈な連撃が繰り出される
常人にはその軌跡すら見ることが出来なかっただろう…だが、シグナムにはしっかりと見えていた
そして、その弱点をも……
(これだけの連撃、必ず最後にわずかな隙が出来る)
「はあぁぁぁ!」
「ぬぅぅぅ?!」
(そのわずかな隙に…賭ける!)
そして、シグナムはその連撃すべてを受けきった

「今だ!」
そしてシグナムは反撃に転じる……が、そこで妙な違和感を感じた
(消えた?)
反撃に転じようとシグナムが恭也に向かっていこうとしたが、その姿が見当たらない
もちろん人がいきなり消えることはありえない、大方気配でも消しているのだろうが
(何だ、この違和感は?まるでこの場にいないかのような…)
だが、それも数秒のこと…耳元で声が聞こえ、シグナムははっとする
「御神流奥義…神速」
「……」
気づいたときにはすでに首下に木刀があった…真剣ならば取られていただろう
「俺の勝ちだな」
「…そのようだな」


「しかし、あれはいったいなんだ?神速、と言ったか」
「ああ、御神流奥義の一つで、爆発的な速度で移動する技だ」
「…気配すら消えていたが」
「そうだな…一分を一秒にする、といえば分かるか?」
「要するに、時間の流れが変わるのか?」
「厳密には違うがな、大方そのとおりだ」
「ふむ、私でも使えるようになるか?」
「まぁ、無理ではないが…かなり時間がかかるな」
「そうなのか?」
「ああ、俺もつい最近使えるようになった…小さいころからいろんな修行をしてな」
「では、父上、士郎といったか、彼は?」
「確かに俺より強い、だが神速は体に負担がかかるからな」
「確か、爆発に巻き込まれたのだったな」
「ああ、護衛任務中にな」

恭也の父、高町士郎は今では喫茶翠屋のマスターをしているが
数年前まではその力で要人警護などを生業としていた
しかし、ある警護任務中爆発に巻き込まれ生死の境を彷徨った

「とはいえ、いまだに勝てないがな」
「ふむ、それはぜひ手合わせ願いたいな」
「無理だと思うぞ、父さんは女性には甘いからな」
「だが、実際に手合わせをすれば本気になるだろう」
シグナムの言葉に恭也は肩を竦めて続けた
「どうかな、うちの女性人に一度でも異を唱えたことがないからな」
「身内だからではないのか?」
「かもしれないな」
「…」
「…」
「…ふ」
「?」
「いや、すまない。なんだか幸福だと思ってな」
「……」
「われらに家族というものはいなかった、プログラムである以上当然だが」
「…」
「だが、今は私にも家族と呼べる者たちがいる」
「…」
「そして、こんないい相手にも巡り会えた」
「それは俺もだ、今まで父さんや美由希としかやったことがなかったからな」
恭也の言葉にシグナムは微笑み、続けた
「良ければ、また手合わせを願えるか?」
「ああ、俺でよければ」
「ふ…次こそは私が勝つ!」
「…返り討ちだ」

そう言って、二人は笑いあった

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あとがき
 はい、まぁ言わずもがなというかなんと言うか…シグナムと恭也の手合わせに関するお話です
とりあえず一度書いてみたかった、ってのと…シグナムならやりたくて仕方なかっただろう、と
というか、こっち系のほうが書きやすく思うのはなぜでしょう?






 
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