漢のケジメ


  


桜舞う春
天気もいい、と言うことで休暇をとり
ゲンヤ、ギンガ、スバルのナカジマ親子は近くの公園へ花見に来ていた

「わぁ、綺麗♪」
「ほんと、春ならではの美しさよね♪」
公園一杯に咲き乱れる桜に、スバルとギンガは感嘆の声を漏らす
「でも、ほんと残念…チンクたちも一緒にこれればよかったのに」
そう言って、本当に残念そうな顔をするスバル
実は、当初チンクたちナンバーズも呼ぶ予定だったのだが
チンクとウェンディは無限書庫の手伝いに、セイン、オットー、ディードは聖王教会での仕事が
ノーヴェとディエチに関しては任務のため、遠出中だ
「まぁ、家族水入らず、っているのもたまにはいいじゃない♪」
残念そうなスバルに、そう言って笑みを浮かべるギンガ
「確かに、こうして家族水入らずでどっか出掛けるなんていつ以来か…」
と、目を閉じ思い出にふけるゲンヤ…が
「…そんな日によぉ、なぁ?…なんでおめぇがいんだよ?!しかも、ごく自然に!」
かっ!と目を見開き、ある人物を指差す…誰かと言えば
「いやぁ、ちょうど休暇が取れたところに、スバルんからお誘いがありまして
 チンクたちからもせっかくだし、自分たちの代わりに行ってくれ、と言われたので
 …もしかしたら、お邪魔でした?」
「そんなことないよ!大ちゃんはもう家族も同然なんだから♪遠慮なんか要らないよ♪」
と、言って大地の腕に抱きつくスバル
「?!こらスバル!そんなことすんじゃねぇ!大地、おめぇも鼻の下伸ばしてんじゃねぇ!」
「ま、まぁまぁ、お父さん?抑えて抑えて」
「ギンガ、おめぇもなんか言ってやれ!」
「あ、あはは…えっと、言いにくいんだけど…大地君も一緒にどうかな?って、私も言ってたり…」
「……」
どうやら、スバル、ギンガ共に彼のことはすでに了解済みのようだ
こうなっては、明らかに分が悪い…何より、娘に嫌われるのだけは避けたいゲンヤである
納得はできていないが、ここは黙るよりないだろう
「一応、理解はしてくれたみたいだね」
「うん、ありがとお父さん♪よかったね、大ちゃん♪」
「うん♪…ありがとうございますお義父さん」
「別にお前のことを認めたわけじゃない…というか、誰がお義父さんか?!」

と、いった感じで多少の口論はあったが
せっかくのお花見、楽しまなければ損だ、と言うことで
綺麗な桜を見つつ、お弁当をつつく四人
作製は、もちろんギンガとスバル

「うん、さすがだな、ギンガ、スバル♪」
色とりどりのおかずに、味も最高
さらには愛娘の手作りと言うことで、ゲンヤは上機嫌
「そう?お母さんには負けるけど」
「いやいや、あいつのは確かに美味かったが
 お前らのもいい線いってるぜ」
と、褒めるゲンヤだったが…

「はい、大ちゃん♪あ〜ん♪」
「あ〜♪…うん、美味い♪」
「えへへ〜♪良かった」
「ほんと最高だよ、スバルんの愛情がわかるくらいだよ♪」
「いや〜ん♪大ちゃんったら、うまいんだから♪」
と、なにやら甘ったるい空気をかもし出している二人
見ると、大地のお弁当は少し…いや、かなり違うようだった
何が、といわれても目ではわからない…だが
かなりの気合を入れて作られたものであるのが容易に判別できるのだ
…これこそ、愛のなせる業といえよう

「……」
「?!お父さん?」
後に、ギンガは語る
あの時ほど、父の背後にはっきり鬼の姿を見たことはなかった、と…

その後、お弁当を食べ終わり
お茶を飲みつつ、桜鑑賞

「桜、すごく綺麗だよねぇ♪」
「うん、俺の世界の桜も綺麗だけど、ここも負けないくらい綺麗だ」
「あ、そう言えば大ちゃんは、なのはさんと同じ次元世界の出身なんだよね?…大ちゃんの世界の桜も見てみたいな」
「じゃあ、今度行こうか?上手く休みが取れれば、の話だけど」
「え?ほんと?!いくいく♪お休み取れたら、絶対つれてってよ?」
「はは、うん♪」

「させんぞ、若造がーー!!」

「ちょ、お父さん、抑えて?!」
「離せ、ギンガ!一発殴らせろー!」
「だめーー?!」
と、まるで閻魔大王かと思うくらいの
オーラを纏い、腰を浮かすゲンヤを
ギンガが必死になってとめる一幕もあり

「ねぇ、スバルん、桜がこんなに美しいか知ってる?」
「ううん、理由があるの?」
「それは…スバルんがあまりに綺麗だから桜が嫉妬してるんだよ♪…もちろん、スバルんのが綺麗だよ♪」
「大ちゃんったら…えへへ♪」

「てめぇは、ホストかこのやろー!」

と、今度は般若の面をかぶっているのかと言うくらいの
形相で、腰を浮かせるゲンヤ
「だから、だめだってお父さん!」
「離せ、ギンガ!あのガキ、一発殺らなきゃ気がすまん!」
「殺っちゃだめー!?」
と、またも必死で止めるギンガ

「あ、そう言えばギンガさん…」
「ふふ、そんな他人行儀でなくていいわよ…私のことはお姉ちゃんか、ギン姉と呼んで♪だって、未来の弟になるんだから♪」
「そ、そうですか?」

「そうですか、じゃねぇーー!てめぇ、いい加減堪忍袋の緒も切れるぞ!」

その姿、阿修羅でさえも逃げ出す気迫あり
と、後に語られることになりそうな、雰囲気を纏い
ゲンヤは叫んだ
…もちろん、此度もギンガが何とかなだめた

と、ここで終わっていればよかったのだが
当然、ラブラブカップルの二人に、空気を読む、などできるはずもなく
まるで二人だけの世界だ、とも言わんばかりにいちゃつく大地とスバル
さすがに、ゲンヤも我慢の限界が来ていた

「あ、飲み物なくなっちゃったね」
「じゃあ、買って来ましょうか」
「うん♪」
そして、スバルとギンガは姉妹仲良く近くのコンビニへ
無論、そうなれば男二人が残されるわけで…

「…ゲンヤさん」
「…なんだ?」
今こそ好機、と一喝しようとしたゲンヤだったが
静かに、だが確かな決意を持った声で大地がゲンヤを呼んだため
言うべきことも忘れ、普通に返事をしてしまった
「その…ですね」
「…ああ」
「…ごめんなさい!!」
「は?!」
勢いを付け、大地はゲンヤに向かって頭を下げた
ただ下げたのではなく、いわゆる土下座というかたちで
「お、おい、どうしたってんだ?」
「スバルん…いえ、大事な娘さんを奪うようなことをしてしまって」
いきなりなことに、焦るゲンヤ
しかも、大地の意外な言葉に驚く
「…そういうからには、覚悟はできてるんだな?」
「はい」
ギンガとスバルが戦闘機人であること、また、ゲンヤ一人で二人を育てたこと
そういったことも、何度か会って話すうちに知ることになった
「戦闘機人と言うことで、二人を見る目は変わりません…むしろ、そんなことどうでもいいんです
 スバルはスバルだし、ギンガさんはギンガさんです…もちろん、ゲンヤさんからすれば当然のことだと思います」
「…」
「なにより、俺はスバルを心の底から愛している…これは、例えなにがあっても変わらない、不変なことです」
「!」
その言葉に、ゲンヤは息をのんだ
「でも、だからといって大切に育てていた娘さんを、横から奪っていくような形になってしまったのも事実です
 きっと、俺のことを殴りたいと思っていますよね?」
「…まぁな」
「だったら、別にいいんです…例え殴られたとしても、反対されたとしても
 俺は、スバルが好きです…だから、好きになった女の子の事は何が何でも守ります
 ずっと一緒にいたいし、幸せにしたい…いや、幸せにします!」
「…」
「だから、俺はこれからもずっとスバルの傍にいる…それが
 ゲンヤさんと、スバルのお母さんへの俺ができるケジメです!」
そう言って、頭を上げた大地の顔には絶対の自信、そして確固たる決意が見て取れた
「…」
その顔を見て、ゲンヤは大地が、どのような気持ちでスバルと付き合っているのか
その片鱗を、垣間見たような気がした
「…ったく、ごちゃごちゃ言ってたのが馬鹿らしくなったぜ」
と、言って微笑むゲンヤ
「…これは、父親としてのケジメだ…大地、うちの娘が迷惑かけるかも知れねぇが…スバルのこと、よろしく頼むぜ」
「!はい、必ず」
「だが!…スバルのこと泣かせたら…わかってんだろうな?」
「ええ、十発だろうが百発だろうが、好きなだけ殴ってください」
「…ふん、言うじゃねぇが」
「はは…」
そして、どちらからともなく笑みを交わすのだった

その後、飲み物を買って戻ってきたスバルとギンガが
笑みを交わす二人を、不思議そうに見ていたのは言うまでもない

それからしばらくして、空が暗くなり
綺麗な満月と、輝く星に彩られる時間となり
花見はお開き
スバルを大地に任せ、ゲンヤとギンガは帰路に着く

「ねぇ、大地君と何を話してたの?」
「ん?」
「なんか、いつの間にか仲良くなってるし」
「別にそんなんじゃねぇや…まぁ、あいつがしっかりしたやつだってわかったからな」
「それって、二人の仲を認めた、ってこと?」
「一応な…だが、スバルを泣かせるようなことがあれば問答無用でぶっ飛ばす」
「くす…素直じゃないんだから、お父さんは♪」
「…うるせぃ」

一方、大地とスバルは公園のベンチに座り
月明かりに照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出す夜桜を見つめていた
「綺麗だね、大ちゃん♪」
「うん、風情があっていいね、スバルん♪」
と、ふと先ほどゲンヤに言われた言葉を思い出す大地
「…スバルんは…いや、スバルは必ず幸せにして見せます…男と男の約束は絶対守りますから…お義父さん」
そう、小さく呟く
「ん?何か言った、大ちゃん」
「心から愛してるよ、マイハニー♪…なんて、言ったり♪」
「?!も、もう、大ちゃんったら」
おどける大地に、ほほを赤らめるスバル
「…スバルん」
「…大ちゃん」
そして、二人はしばし見つめあい
「ん…」
「ん♪」
静かに、唇を重ねる
軽く触れ合うものではない、長い長いキス

そんな二人を、まるで見守るかのように
月明かりの中、煌く星々に混ざって
優しく、二人の周りを桜の花びらが散っていくのだった…



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あとがき
 はい、と言うことでまたも遅れましてすみません…
まぁ、長々と書いてしまっていることもその要因ではありますが
とりあえず、叫ぶゲンヤさんを楽しんでいただければ、と(笑)

      
 
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