恋する乙女


  




その日、シグナムは困惑していた
(ありえん、私がこのような想いを抱くなど)
そう言ってシグナムは胸に手を当てる
そこにはもやもやとした、だけどとても暖かな気持ちがある
シグナムはその正体がなんであるか、知っていた
(もしそうだとしても、ありえん。私が・・・・”彼”に・・・)
と、そんなことを考えていると不意に声が聞こえた

「シグナム?どうしたんだ、こんなところで」
「ビクッ?!・・・て、提督?」
「?どうした、そんなに慌てて」
「な、なんでもない・・・それより、なにかあったのか?」
シグナムの言葉に少し疑問を抱きつつクロノは続ける
「いや、特にこれといったものではないのだが・・・体調は大丈夫か?」
「別にどうということはないが・・・」
「そうか・・・・ならいいのだが」
「・・・何か、気になることであったのか?」
「なんとなくだが・・・少々動きが鈍いような気がしたからな」
「動きが鈍い?私が?」
「ああ、何か考え事でもしていたのなら力になるぞ?」
「・・・・・・」
(不覚・・・まさかそんなに気になるほどだったとは)
クロノの言葉にシグナムは自らの未熟さを呪った
そんなシグナムの表情から言ってはいけないことだったのかとクロノは謝罪した
「いや、悪い。不快にさせるつもりはなかったんだ、許してくれ」
「い、いや、不快になど・・・その、私のほうこそすまない」
そう言ったきり、二人は黙ってしまった
そして、その沈黙を破ったのは・・・
「あれ?クロノ君にシグナム。どないしたん、こないなところで」
「はやて・・」
「主、いえ、たいした理由はないのです・・・」
「・・あ、もしかして二人は付き合ってる、とか?」
「な?!」(赤
「なにを言っている、ちょっと世間話をしていただけだ。第一そういう関係になるわけないだろう」
顔を真っ赤にしたシグナムと
まったく意に介さないクロノの言葉にはやてはため息をついた
「はぁ・・・・・クロノ君」
「ん?なんだ」
「一発殴らせてな♪」
そう言ってはやては笑顔で握りこぶしを作る
「ちょ、ちょっと待てはやて?!僕がなにをしたというんだ」
「わからん言うんなら隣を見てみい」
「隣?」
はやての言葉にクロノが隣にいるシグナムを見ると
ふふ・・・・当然か・・・・いや、なにを期待したというのだ・・・
「シ、シグナム?」
シグナムはまるで頭をたれるように落ち込み、なにやらぶつくさと呟いていた
まったく、私は主を護る騎士なのだ・・・・・なぜこのような
「・・・・・」
「ほら、すねてもうた」
「はやて、どうしたらいい?」
「ん〜、そやな・・・・・そだ。こうしよか♪」
そう言ってはやてはシグナムにぼそぼそと小声で語りかけた、と・・・

「えええぇぇぇぇぇ?!」

シグナムが今まで聞いたことのない大声を出した
「そ、そそそそ・・・そんなことを・・・・」
「したないんか?」
「そ、それは・・・・・」
なにやら自分の知らないところで嫌な会合が行われているような感じがして
クロノははやてに問いかけた
「はやて、いったいなにを?」
「ん?シグナムとデートするだけや♪」
「ああ、デート・・・・・・・・・・・・・デート?!
笑顔で言うはやてに普通に返事をしてしまうところだったが
よく考えてみれば”デート”といえば恋人同士が仲を深めるために二人で遊びに行くことを指す
「な、なにを考えてるんだ?!そんなことできるわけが・・・・」
「クロノ君・・・・・」
「?!は、はやて・・・・」
笑顔で言うはやてにクロノは言いようのない寒気を感じた
そんなクロノにはやては静かに近寄りこう告げた
「断るんなら・・・・・・・”石”にするで」
「ば、馬鹿なことを・・・僕が断るわけないじゃないか・・・」(冷汗
「ほならええわ♪」
先ほどまでが嘘のようにはやては満面の笑顔でクロノの肩をたたいた
「シグナムはこういったこと初めてやから、クロノ君がリードするんよ」
「あ、ああ・・・」
半分、いやほとんど押し切られた形になってしまったが
ここで異を唱えてホントに石にされたらしゃれじゃすまない
「ほな、シグナムもええな?」
「え?あ、いえ、その・・・・・」
「・・・・ええな?」
「は、はい!!」
はやての剣幕に押されてシグナムは返事を返してしまう
(シグナムまで押されるとは・・・・はやて、侮れん)


その後、なにやら準備があるとのことでクロノは先に待ち合わせ場所に来ていた
「・・・遅いな」
大体1時間くらい、といっていたがすでに2時間ほどたっている
「まぁ、別に何か他にすることがあるというわけではないが」
言ってて少々悲しくなるが、事実なので仕方ない
と、そんなことを考えていると聞き覚えのある声が聞こえた
「クロノ君、お待たせ♪」
「ああ、はやて。いったいどれくらい・・・・・・・・」
待った、と言おうとしてクロノは言葉に詰まった
理由ははやての隣にいる女性に目が釘付けになったからだ
女性は長くきれいな赤みがかった髪で、水色のワンピースを着ていた
女性の雰囲気から着ている服はどうかと思われそうだが
恥ずかしそうに顔を隠すような仕草が不思議と似合っている
「はやて、隣の女性は?」
「ふふ、なんやクロノ君はこういう女性が好みなん?」
「な?!そ、そういう意味じゃなくて、その、シグナムはどうしたんだ?」
「・・・・・そんなにおかしいか?提督」
「え?!」
クロノの問いに答えたのは以外にもはやての隣にいる女性だった
しかも、ものすごく聞き覚えのある声で
「ま、まさか・・・・・・・シグナム、か?」
「・・・・う、うむ」
クロノの言葉に女性、シグナムは顔を真っ赤にして頷いた
まさに言葉に詰まる、とはこういうことを言うのだろう
そんな二人を見ていたはやては満足そうに微笑みながら
「うんうん、それでええ♪」
「は、はやて、これはいったい?」
「え?デートするならそれなりの格好をするもんやろ?」
「いや、だからって・・・・」
「て、提督の言うとおりです主。私にこのような格好は・・・・」
「せやけどクロノ君は気にいっとんのやろ?」
はやての言葉にクロノは顔を真っ赤にした
「ほらな?双方合意、何の問題もないやろ♪」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
結局二人は何も言えないままデートをすることになった


「・・・・その、な」
「・・・・・う、うむ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
と、デートをすることになったはいいが
結局二人は先のように一言交わすだけで
すぐに黙ってしまう
「・・・・・」
「・・・・・」
『なにしとんの?!』
「うわっ?!」
「きゃ?!」
ボーっと歩いていた二人の頭に不意に声が響いた
『まったく、せっかくのデートやのに黙ったまんまやなんて』
『・・・覗き見とはいい趣味だな、はやて』
頭の中に響いた声、魔導師の間で交わすことのできる”念話”と言うものだ
それにクロノは同じように念話で返す
『覗き見なんて、堂々と後つけとるよ』
『・・・もっと悪い』
『ま、そないなことは置いといて・・・・なんでちっとも話さんの?』
『・・まぁ、こう改まった感じだとなにを話せばよいやら』
『いつもどおりでええんや。シグナムも少しは普通にせな、緊張しとったらなんもでけんよ』
『し、しかし主。私にはそもそもこういう場は・・・・』
『はぁ・・・・シグナム、あんたはそないな意気地なしだったんか?』
『?!』
『うちの知っとるシグナムは何にも全力で取り組む娘やった』
『・・・・・』
「・・・・・そうですね」
「え?」
シグナムは念話ではなく、口に出してそう言った
「主の言うとおりですね、こんなのは私らしくありません」
「シグナム・・・」
「行こう提督、今日はとにかく楽しもう」
そう言ってシグナムはクロノの手を引いた
「ちょ、シグナム?」
「ほら、提督・・・・いや、この場合はハラオウンと呼んだほうがいいか」
「お、おいおい」
「ふ、そういうな。こういったことは初めてなのだ、多少は協力してくれてもよいのではないか?」
「・・・・・ふ、シグナムがそういうのなら僕がとやかく言うことではないか」
そう言ってクロノは微笑んだ


「・・どうやら、もう大丈夫みたいやね」
こっそり、と言うより堂々と後をつけていたはやては
二人の様子を見て微笑んだ
「さて、と・・・・うちは帰って夕ご飯の用意せなな」
そう言ってはやては家路についた


その後、クロノとシグナムは遊園地、動物園、水族館と
知りうる限りのデートコースを回った
そして最後に海鳴公園へと足を運んだ
「ふぅ・・・なんかえらく無理なコースだったな?」
「そうだな、さすがに疲れた」
「自分から誘っておいてそれか」
「そういうな、初めてで加減がわからなかったのだ」
そう言ってシグナムは微笑んだ
「・・・・・」
「ん?どうした、ハラオウン」
「いや、優しい笑顔だと思ってな」
「・・・・・・・ボッ」(赤
クロノの言葉にシグナムは耳まで真っ赤になった
「な、なにを言っている、私が優しいだと?」
「変か?」
「変、と言うか・・・・私は騎士だ。騎士は人の命までも奪ってしまう」
「・・・・」
「そのようなものに、慈悲の心など・・・・」
「・・・そうかな?」
「え?」
「慈悲の心がないと言うのなら、なぜはやてを助けようとした?」
「そ、それは・・・・」
「慈悲の心がないのなら、なぜ心の底から笑える?」
「・・・・・」
黙ってしまったシグナムにクロノは微笑んでこう続けた
「シグナムは優しいよ、今日一日一緒にいて改めて思った」
「ハラオウン?」
「いい妻になれるんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・つ、妻?」
クロノの言葉にシグナムはかなり遅れてその言葉を反芻した
と、とたんに意味を理解し、シグナムは真っ赤になった
「な、ななななななにを言っているのだ、ハラオウン?!」
「ん?どうした、別に変なことではないだろう」
「いや、私は、その・・・・人ではないのだぞ」
「人、というかシグナムはシグナムだろ?」
「え?」
「少なくとも管理局の人間、もちろん僕もシグナムはもちろんヴォルケンリッターのみんなをそういう風には見ていないよ」
「ハラオウン・・・」
「だから、気にするな。シグナムはシグナム、それ以上でもそれ以下でもない」
そう言ってクロノはシグナムを頭をなでる
「あ・・・」
「今日は誘ってくれてありがとう、いい気分転換になったよ」
「・・・・いや、私のほうこそこんなことに付き合ってくれて感謝している」
そう言ってシグナムは微笑んだ



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あとがき
 なんというかタイトルと内容が微妙にあってない気もしますが・・・
まぁ、書いてた私は楽しめました(笑)
やっぱりヴォルケンチームは書きやすいですねぇ






 
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