クロノとアリサ


  




それは何気ない言葉
久しぶりに会ったその人はずいぶん大人びていて
私は……


「んーっ……終わったわね」
「アリサちゃん、ずっと退屈そうにしてたもんね」
「だって、実際そうなんだもん」
すずかの言葉にアリサはそう言ってさっさと教科書を鞄に詰める
「じゃ、私は先に帰るから」
「え?この後なのはちゃんたちと遊びに行こうって思ってたんだけど」
「あー…ごめん。今日は無理、また今度ね」
そう言ってアリサはさっさと帰っていった

帰り道

「…あれから3年か、長いようで短かったわね」

3年前、アリサとすずかがすべてを知ったときだ
なのはとフェイト、はてはリンディやクロノも魔法使いで
いろんな事件を人知れず解決してきたと

「……ったく、どうしてもっと早く言わないのよ」
いまさらと分かっていてもそう言わずにはいられなかった
「…力になれないかもしれないけど、話を聞くくらい出来るのに」
そう言ってアリサは空を見上げる
夕方ということもあり、空は茜色に輝いていた
「……」
(そういえば、あの時もこんな空だったな)


【その、クロノさん】
【ん?どうした、アリサ】
【えっと…なんて言ったらいいかな…】
【…】
【……クロノさん、私!】


「…はは、私らしくなかったな、あんなの……ってか、今そんなこと言ってなかったでしょうが」
「一人突っ込みはさびしいぞ」
「え?!」
声に驚き振り向くと一人の青年が立っていた
「……」
「髪を切っていたから、最初分からなかった」
「えっと…その」
「?どうした、僕の顔に何か付いているか」
「え?あの?…って!もしかしてクロノさん?!」
アリサは、まるでお化けでも見たように驚いた顔をした
「何だ、お化けでも見たような顔をして」
「いや、だって、最後に会ったときあんなにちっちゃかったのに?!」
「…アリサ、僕のことを”誰”と勘違いしたのか知らないが、人間だから成長位する」
「いや、でも1年でここまで?」
「それはアリサも同じだろう?すっかり女らしくなって」
「な?!そ、そんなことないですよ」
クロノの言葉にアリサは顔を真っ赤にしながら首を横に振る
「そうか?それに髪も切っていたからな、正直綺麗な娘だと思ったくらいだ」
「そんな……ん?ちょっと待って、それって私は綺麗でもなんでもないと?」
「い、いや、そうは言ってない…ただ、アリサと知っていなかったからってことで」
「だから!それって私と知ったら綺麗でもなんでもないんでしょ?!」
「な、なぜ君はそう突っ掛かるんだ?!」
「女の子なら誰だってこうなるわよ!」
そう言ってアリサはぷいっとそっぽを向く
「悪かったよ、久しぶりに会ったんだからお茶くらいおごるよ」
「…買収なんかされませんから」
「…はぁ、まったく…なら、華麗堂のチーズケーキならどうだ?」
クロノの言葉に一瞬アリサの頭に犬の耳が生えた
「…ホントに?」
「ああ、何なら3つまでならおごるぞ」
「……」
女の子は甘いものには目がない
しかも、華麗堂のチーズケーキはアリサの大好物なのだ
それを3つも食べていいと言われれば首を縦にしか振れない


「ん〜♪、しあわせ〜♪♪」
「まったく、現金というかなんというか」
そして、二人は華麗堂へ足を運んだ
もちろんアリサはチーズケーキを3つと紅茶
クロノは意外にもモンブランとコーヒーを頼んでいた
「んく…そういえば、クロノさんって結構甘いもの好きだよね?」
「ん?…そうだな、まぁ母さんがとんでもない甘党だからな」
「あはは…」

クロノの母リンディは緑茶に角砂糖3個とクリームを入れるほどの甘党だ
ちなみに、リンディの作る玉子焼きに塩は入らない

「まぁ、それはとにかく、うまくやってるか?」
「ん?うまくって」
「フェイトたちとだ…いきなりいろいろと簡単には受け止められないことがあったろう?」
「…そうだね」
「で、特に心配はなかった…と言えば嘘になるが、変に意識してないかとな」
「…ま、驚きはしたけど、なのははなのはだし、フェイトもなのはと仲がいいからね、特にどうってことはなかったわ」
「…そうか」
ドキッ!
(う、なんか大人になったっていうかちょっと…いい)
「どうした、なんか顔が赤いが大丈夫か?」
「?!だ、大丈夫だから」
「そうか?無理はするなよ」
「う、うん…」
(うー、なんだろうやけに今日は気になる…やっぱ、あれ、かな…)

その後、少し話をしてから二人は店を出た
その帰り道、アリサがポツリとつぶやいた

「1年前…」
「ん?」
「1年前のこと、覚えてます?」
「……ああ」
アリサの言葉にクロノは静かにうなずく
「まだ、理由、聞いてません」
「…そうだったな」

1年前―

【その、クロノさん】
【ん?どうした、アリサ】
【えっと…なんて言ったらいいかな…】
【…】
【……クロノさん、私!お手伝いしたいです】
【手伝い?】
【なのはたちは今までがんばってたんです、だから私も…】
【…駄目だ】
【…でも】
【君では務まらない、君は今までどおり過ごすんだ】
【……】


「正直あれからしばらく落ち込んでたのよね」
「…それは、すまない」
「…まぁ、一日だったけど」
「一日か?!」
「でも、やっぱりすっきりしなかったのよね…だから教えてもらえません?」
「…そうだな、僕もあの時は言葉が足りなかったからな」
そう言ってクロノは真剣な顔で言葉をつむいだ
「君には魔法の素質がなかった…だからだ」
「…」
「確かに君の能力は目を見張るものがあった…だが、それは世間の人に比べて、だ」
「…こっちでは通用しないと?」
「…いや、正直なところ訓練をすればかなりいいところまで行くと思っていた」
「…じゃあ、どうしてですか?」
「…結局、僕らは戦闘集団だ…どんな任務であろうと常に死と隣り合わせになる」
「でも、なのはたちはそれをやってる」
「確かに…だが彼女達は特別だ、もともとの素質があったからだ」
「……」
「それに、なのはの父親と兄妹は戦いに関して突出しているし、フェイトは戦いにおけるスキルをほぼ会得している」
「…」
「はやても幼いころから闇の書の魔力に触れていたことと、一度取り込まれかけたことによって膨大な魔力を手にしていた
 だから、彼女達ならある程度は戦い慣れしている…だが君の場合はまったくの素人だ」
「そう…ですね」
「だから、最悪の事態になる可能性が高かった…それが理由だ」
「……」
クロノの話はすべて筋が通っていた
なのはたちはみなそれぞれに戦ってきた、だから戦いについてもある程度理解しているだろう
だが、アリサは戦い、というものはゲームでしかした事がない
実践とプログラムでは否応にも差が出る
そして、戦いにおいてその差はすなわち死を意味する…そうでなくても仲間に迷惑をかけることになる
「それにな、なのはたちはなのはたちにしか出来ないことをしている」
「なのはたちにしか出来ないこと…」
「そうだ…そして、それはアリサ、君にも言えることだ」
「あたしにも?」
「ああ、なのはたちは戦いのとき大抵君たち友人や家族のことを思って戦っている…少なくとも僕はそう思ってる」
「…」
「そして、待っていてくれる友や家族がいれば、その分強くなれる」
「クロノさん…」
「だから、君は君の出来ることをすればいい…彼女達の帰る場所であるように」
「私が…私達がなのはたちの帰る場所?」
「ああ…」
アリサの言葉にクロノはやさしく微笑んだ
「…クロノさんは?」
「僕?」
「クロノさんは何のために戦ってるの?」
「…一つはもう僕や、フェイトのような思いをする人間を減らすため…あとは」
クロノはそこで一呼吸置き、続けた
「君たち、かな?」
「え?」
「なのはたちもそうだし、すでに僕らのことを君たちは友人として扱ってくれている
そんな君たちを護ることも、僕達の使命…いや、僕がそうしたいんだ」
「クロノ…さん」
「なんというかな、君たちといると心がほっとするんだ…まるで穴を埋めてくれるように」
「穴を…埋める?」
「ああ、戦いで疲れた心、どうしようもないと分かったときの絶望、それらを癒してくれる
そんな感じなんだ」
「…じゃあ、あたし達、役に立ってるんだ」
「ああ、戦いにおいて前線に立つものがすべてじゃない、それ支えるものがいるからこそ
戦っているものは安心できる…背中が温かいから」
「…」
「はは、らしくなかったかな…とにかく、焦る必要はないんだ、それぞれが持つ資質、能力を
見極め、それぞれが出来ることを精一杯やる…それが大事なんだ」
「…なんか、クロノさんかっこいい」
「…おだてても何もでないぞ」
「ううん、純粋にそう思った」
「ふ、ふん」
クロノは照れているのかぷいっとそっぽを向いてしまった
その仕草がなんだかかわいくて、アリサは自然にクロノの頬に唇を寄せた
「…ちゅ…」
「……………な?!な、な、ななにををを?!」
「今まで護ってくれたことと、ケーキをおごってくれたお礼♪」

そう言ってアリサは微笑んだ
そして、彼女はそのとき一つの感情を理解した
それはとても小さな感情、だけどとても大きく心を支配する感情

”恋”

(やっと気づいた、あたし…クロノさんに恋してる…
 でも、今はまだ言うべきときじゃない…でも、いつか)

そう、いつか彼と肩を並べることが出来るようになったら
そのときこそ、この気持ちを打ち明けよう……

「クロノさん…大好き♪」





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あとがき
  はい、なんというか良く分からなかったかもしれませんが
一応アリサの初恋ってことで書きました。
似たのなかった?と気づいた人はそのまま黙ってること…それが世の理(笑)





 
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