縁日で


  




「縁日?」
「うん、そんなたいしたものじゃないらしいけど」
「ふ〜ん…」
話を聞いていたクロノはそう言って興味なさげにテレビをつけた
「別に行ってくれば良いじゃないか、なのはも一緒なんだろう?」
「う、うん…そう、なんだけどね」
「?」
少し歯切れの悪い言い方のフェイトにクロノはテレビを消した
「どうした?行きたくないということではないんだろう?」
「う、うん…」
「なら、なにを躊躇しているんだ」
「…あの、ね……もし、空いてたら…で、いいんだけど」
「ん?」
「一緒に…回らない?」
「え?」
「……」
そう言ってフェイトはうつむく
クロノは冷静な顔でなにやら考えている……いや

(待て、それはつまり僕と行きたい、と?)
(あ、いやいや、なのはも一緒…両手に花?)
(だから待て!なのはだけではない、よな…ユーノやはやても来るだろう)
(ああ、いや、しかし……)

「あの…クロノ?」
「……はっ?!な、何だフェイト」
「話、聞いてた?」
「あ、いや…すまない」
「もぅ…だからね、なのはたちも一緒なんだけど、時間が遅くなりそうなの」
「何か用事でもあるのか?」
「みたい、だから…それまで一緒にどうかな?って」
「…つなぎか…」
そう言ってクロノはため息を吐いた
「え?な、なに?私、何かいけないこと言った?」
「いや…僕が勝手に勘違いしたんだ、気にするな」
「??」
本気で何か悪いことをしたのかと心配するフェイトに
クロノはそう言ってうつむく

(まったく、なにを考えているんだ…もう大人だろう、この程度のことで動揺するなど)
(大体、フェイトは妹だ、妹に欲情するなど……)
(いや待て、もしかしたらフェイトがいけない想像とかしてて……一線を越えようと?!)

「いかーん!!」
「びくっ?!」
なにやらぶつぶつ言っていたクロノがいきなり大声を張り上げたので
フェイトは驚いた
「フェイト、だめだ。僕たちは兄妹だ、そんなこと許されない!」
「え?え??あの、クロノ…お、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか、いいか?たとえ義理とはいえ兄妹でそんな不埒な…」
「え?あの…」
「そりゃ、確かに僕も男だ、フェイトはかわいいし。しかしだな、世間的にそういったのは…」
「…何の話?」
「え?縁日は口実で僕に告白するんだろ?」
「……」
「……」
しばらくの沈黙…そして
「…バルディッシュ」
『Yes sir!』
「え?ちょ…フェイト、なぜバルデッシュを起動する?!」
「…変態なお兄ちゃんにお灸をすえるの♪」
「いや、その笑顔は逆に怖いぞ…」
「怒ってるから」
「は…はは」
クロノのから笑い、そして…

「サンダーレイジ!!」

「ぐはぁぁぁぁっ……」
フェイトお得意の雷魔法が炸裂した


そして縁日当日

「わぁ〜、すごい、露店がいっぱいある」
「まぁ、縁日といえば露店だからな」
というわけで、クロノとフェイトは縁日へとやってきた
「あ、あれなに?お兄ちゃん」
「ん?金魚すくいだな」
「金魚すくい?」
「ああ、ポイっていう道具を使って金魚をすくうんだよ。で、取れた金魚をもらえる」
「へぇ…」
「興味あるならやってみるか?」
「え?いいの?」
「いいも何も、そういうことをするために来たんだろう?」
あきれたようにクロノはそう言った
「そ、そうだよね…うん、やってみる」
そう言ってフェイトは金魚すくいの露店へ
「お、やるかい?お穣ちゃん」
「えと、やったことないんですけど…」
「おお、そうかい。簡単だよ、そこにあるお椀にこのポイで金魚をすくうだけだ」
「それだけ?」
「ああ。ただし、ポイは破れやすいし金魚は動くからな、簡単には取れないぜ」
「…頑張ります」
こうして、フェイトと金魚の戦いが始まった

「はっ!」
「ほいっ!」
「ああ…破けた」
戦果…ゼロ
「はは、残念だったな」
「もう一度」
「え?」
「もう一度挑戦します!」
「お、おお、頑張れ…」
なにやらいいようのない威圧感に、露店の店主はうなずく
「…それっ!」
「はっ!」
「ああ…また……もう一回!」
「お、おう」
「……」
その後5回もの挑戦の末、一匹ゲットすることができた
「えへへ♪」
「そんなにうれしいのか?」
「うん、でもあんなに難しいとは思わなかったな」
「まぁ、よほどのことがない限り簡単に破けるようになってるからな」
「え?そうなの」
「ああ、だから一匹も取れない場合おまけで一匹もらえるんだよ」
「嘘!?」
「ホント」
「あうぅ〜、なんか頑張って損したかも…」
「僕は役得だったけどな…」
「え?」
「フェイトの頑張ってる姿がかわいかったから」
「な?!」
クロノの言葉にフェイトは一瞬で顔を真っ赤にした
「…そ、そんなこと……」
「いや、なんか歳相応っていうか、見てて微笑ましかった」
「そ、そう?」
「ああ、いつもフェイトは管理局の仕事を一所懸命やってくれる…だけど、そのせいで本来やるべきことができていない」
「本来やるべきこと?」
「…思いっきり遊ぶこと」
「え?」
「フェイトはまだ子供だ。なのはたちもそうだが、子供は思い切り遊ぶべきだ」
そう言ってクロノは微笑んだ
「だから、今日はそれができたみたいで、よかったよ」
「…クロノは遊んでなかったんでしょ?」
「……君は兄のありがたい言葉をそう返すか?」
「ふふ、だってそうでしょ?私たちが会ったころはまだ14歳だったんだから」
「…まぁな、だが僕の場合はそれが当たり前だった」
「クロノ…」
「僕は、僕の意思でこうなることを望んだ…まぁ、遊びたくなかった…と言ったら嘘になるが」
「……」
「だが、できなかった…だから、フェイトたちには僕の分も思いっきり遊んで欲しいんだ」
「…優しいね、クロノは」
「な?!な、なにを言ってるんだ、別に僕は…」
狼狽するクロノを無視し、フェイトはさっそと歩いていく
「ほら、早くしないとなのはたちを待たせちゃうよ…お兄ちゃん♪」
「……はぁ、ここまで甘いとはな…バカ兄だ」
そう言いつつ、クロノの口元は綻んでいた



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あとがき
 はい、というわけで夏らしく縁日のお話
まぁ、ぶっちゃけクロノのシスコン振りを書きたかったんですがね(笑)
といっても、もう少し甘くしたほうがよかったかなぁ、などと思ったりも…






 
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