その男、天の道をいく


   




「そっちに行ったわよ、ソウジ!」
「ち!こんなとこで管理局に捕まってたまるか!!」
そう言って、男は駆け出す
「…」
「どけ!!」
その男の前に、一人の青年が現れる
格好から管理局員であることがわかる
「…」
「?!」
と、男と青年がすれ違う刹那
男の体が宙に舞った
「ぐはっ?!」
「…婆ちゃんが言っていた、どんなものであろうと命を奪ってはいけない、と」
「なん、だと?」
「よって、半殺しで止めよう」
「な?!」

「お疲れ、ソウジ」
「ああ」
その後、男は素直に投降した
初犯だったらしく、事を構える度胸はなかったようだ
「今回も助かったわ、ソウジ」
「気にするな、俺にかかればこの程度朝飯前だ」
「ふふ、いつも自信満々ね」
「当然だ…俺には天にかかる道が見えるんだからな」
そう言って、右手を掲げる

青年の名はソウジ・スカイロード
ミッドチルダの北方出身の魔導士
ランクはSS、デバイスは短剣タイプ
一時的に音速を超える速度で動くことができる能力を有し
性格なのか、どんな場面も動ずることなく任務をこなせるので
執務官クラスの者からの信頼も厚い

「そうだソウジ、次の休みって暇?」
「ん?特に用事はないが」
「それじゃあさ、久しぶりにデートしない♪」
「…そういえば、最近してなかったな」
「まぁ、任務とかいろいろあったから」
「…いいだろう、どこか行きたい所はあるか?」
「ソウジにお任せ♪」
「…他力本願か?」
「だって、ソウジのセンスって結構いいから、間違いはないでしょ」
「…まぁ、彼女にそういわれては、張り切らないわけにいかないか」
「ふふ、期待してるわよ♪」

デート当日

「ふむ、少し早く着いたか」
待ち合わせ場所に着いたソウジは、そうつぶやく
「まぁ、待たせるよりはいい…ん?」
と、なにやら見覚えのある後姿が
「…こういう場合は、待ったか、とお約束を言うべきか?」
「ん〜、別にいいんじゃない」
呆れたような声音で問うソウジに
そう驚いた風もなく言うギンガ
「これでは男の立場がないぞ」
「いいの…だって、ソウジっていつも先にいくんだもの
 たまには私のほうが先でもいいでしょ?」
「まぁ、ギンガがそれでいいのなら異論はないが」
「うん♪…それじゃ、いこ」
そう言って、ソウジの腕に自分の腕を絡ませる
「…歩きにくくないか?」
「いや?」
「…別に」
「じゃ、このままで♪」
と、笑みを浮かべるギンガに
ソウジは呆れながらも笑みを浮かべた

「それで、今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「世界のお化け屋敷めぐり」
「……………え?」
「?」
何て言った?と首を傾げるギンガ
聞こえなかった?と首を傾げるソウジ
「冗談、よね?」
「…ああ」
「…」
「…」
「…ソウジ?私、ちょっと"回し"たい気分だわ」
「?!!す、すまん、戯れが過ぎた」
「うん、わかればいいのよ♪」
笑顔で右手を掲げるギンガに、ソウジは素直に謝る
「それで?」
「…ああ、フラワーガーデンだ」
「フラワーガーデン?」
「ああ、最近できたらしいが…色とりどり、多種多様な花が咲いていて
 花の蜜を使ったお菓子や、花にちなんだ雑貨などがあると書いてあった」
「へぇ…」
「婆ちゃんが言ってた、気がないことを強要するのは最低だ、と
 …気に入らなければ別の場所にするが?」
「その必要はないわ…花って、結構女の子は喜ぶのよ?」
「…そういえば、以前贈った…」
「わー!わー!そ、その時の事はいいの!!」
「?可愛かったがな」
「?!…そういうの反則よ」
「ふ…悪い」
「…ばか」

その後30分ほどかけてフラワーガーデンに到着
入場料を支払い早速園内へ

「わぁ、綺麗♪」
「確かに…」
園内は色とりどりの花々で埋め尽くされていた
薔薇や百合などの定番の花から
チューリップやパンジーなどの身近なもの
果ては桜まである
「ここまですごいとは思わなかった」
「まぁ、数百種の花々があるということだしな」
「なるほど、それならこの広さもわかるわね」
そう言って、改めて園内を見るギンガ
おそらく、奥のほうにも広がっているのだろうが
今いるエリアだけでも、すべてを見て回ろうとすると
半日はかかるのではないかという広さだ
「今日だけじゃ回り切れないわね」
「ああ…と言う訳で、パンフにあるお勧めのルートを行くぞ」
「了解♪」

「ん〜、いい匂い♪」
「そうだな」
二人はパンフレットに記されている
お勧めコースを回る
「この花は?」
「それは百合だな」
「へぇ、これが」
「そういえば、女性同士…」
「ん?何か言ったかしら」
「…いや、なんでもない」
笑顔で振り向くギンガに、ソウジは
言おうとしていた言葉を飲み込んだ

「ここは…」
「小さい花が中心のフロアらしい」
「へぇ…あ、これすごく小さくて可愛い♪」
「それは秋桜だな」
「これが秋桜なんだ」
「ちなみに、見た目に反して強いらしい」
「そうなの?」
「ああ、折れた茎の途中から根を出して、また咲くらしい」
「へぇ…」

「んと、次のフロアは?」
「飲食街だな…花にちなんだ菓子を出すとある」
「それは楽しみね♪早く行きましょ」
「了解」

二人はカフェ形式のお店に入り
お勧めを注文した

「うわぁ、可愛い♪」
目の前のお菓子を見て、ギンガは幸せそうだ
ギンガが頼んだのは、フラワーカルテット
花にちなんだ四種のお菓子が目でも楽しませてくれる
百合の形をしたタルトに桜の葉の塩漬けと桃のムースを挟んだケーキ
薔薇の形をした和菓子とクローバーやラベンダーなど数種の花からとった
蜂蜜を使ったクッキーの四種
特に、女性客に人気があるらしい
「どれから食べればいいか迷うわね♪」
「そこら辺は男にはわからないところだな」
「そう?」
「ああ…こういうシンプルなのがいい」
そう言って、ソウジは自分の分のお菓子を指す
ソウジが頼んだものはケーキセット(桜)
桜をイメージしたケーキで、ベリー類を混ぜたスポンジに
桃のムースを挟み、さくらんぼのクリームをのせたものに
桜のジャムをいれたロシアンティーのセット
数あるケーキセットの中で一番人気だという
「ま、楽しみ方は人それぞれだし早速食べましょ♪」
「ああ」

「ん〜、美味しかったわね♪」
「ああ、そうだな」
お菓子とお茶を楽しんだ二人は次のエリアへ
「それで、ここは?」
「家庭で簡単に育てられる花が中心らしいな
 チューリップやパンジーなど、球根も売っているらしい」
「こういう普通のもいいわよね、身近にあるからよくわかるし」
「そうだな」
「そういえば、ソウジってどんな花が好きなの?」
「なんだ、いきなり?」
「ん〜、ちょっと気になったから」
「特にはない」
「ほんとに?」
「ああ…強いて言えば、ギンガが好きな花だ」
「え?」
「ま、男はあまり花に興味はわかない…ギンガのような華には興味あるがな」
「うわ、気障」
「……そ、そうか?」
「うん…でも、そういうのは嫌いじゃないかな♪」
そう言って、微笑むギンガだった

その後も、いくつかのフロアを回り
気がつけば、外はオレンジ色に染まっていた

「ん〜、楽しかった♪ありがと、ソウジ」
「楽しめたなら何よりだ」
「うん、やっぱり任せて正解だったわ」
そう、笑みを浮かべる
「さて、それではそろそろ帰ろう」
「ん〜、やっぱりそうなるわよね」
「?それはそうだろう」
「そうだけど、せっかく一緒に過ごせる貴重な一日でしょ
 これで終わり、っていうのはちょっと、ね?」
「…」
ギンガの言葉に、ソウジはしばし考える
「なら…あそこにでも行くか」
「?」
「少々時間はかかるが、それでもよければ、な」
「問題ないわ、その分一緒にいられるってことだしね」
「では行くか」

その後、二人は30分ほど掛けてある高台へと登った

「ここは?」
「人づてに聞いた場所でな、この時期、夜になるとすごいものが見られるらしい」
「すごいもの?」
「ああ…もう少ししたら、か」
「?」
ギンガは首を傾げるが、ソウジは構わずに時計を見ている
「…時間か」
「?…あ」
顔を上げたソウジに倣い、その先を見ると
「…綺麗」
「これほどとは、やはり実物は違うということか」
二人の目の前には大きな桜の木が
花は満開に咲き誇り、わずかな月の光に照らされ
あたかも、一枚の絵のような錯覚を覚える
「こんなのどこで聞いてきたの?」
「高町教導官にな。家族で夜桜を眺めながら花見をするのが
 最近のお気に入りだと」
「なるほどね」
「だが、確かにこれなら気持ちはわかるな」
そう言って、ソウジは桜を見上げる
昼間に見るのとは違い、夜の暗闇の中
月の光だけで見る桜は、どこか幻想的に映る
「…好きな人と一緒だとなおさら、ね」
そう言って、ギンガはソウジに身体を預ける
「確かに、一人だと味気ないかもしれないな」
「…うん」
それきり、二人は言葉を発することなく
互いに身体を寄せ合ったまま、桜を眺めていた

それから、どれくらいの時が経っただろう
ふと、ギンガがつぶやく
「今日はこのまま居たいな…」
「…このまま、か?」
「うん、このままずっと一緒に」
そう言うギンガの瞳は、少し潤んでいた
「…そうだな」
「あ…」
そんなギンガの頬に、ソウジは手を添える
「ギンガ…」
「ソウジ…」
そして、そのまま二人は引き寄せられるように唇を重ねる


そんな二人を、淡い月の光に照らされた桜が静かに見守っていた…




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あとがき
 はい、まぁとくに言うことはありません(を
なんか、時間だけが無駄にかかってるだけって感じで申し訳ないのですが
楽しんでいただけるようなものはできた…と思いますので


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