パーティ


  







「なぜ、私がこのような格好を」
そう言ってシグナムは隣にいるクロノに問いかけた
「仕方ないだろ、この格好でなければ入れてもらえないのだから」
そういうクロノは礼服を着ている。シンプルだが元がいいのでかなり様になっている
「だが、僕はいいと思うぞ、その格好」
「な、なにを言ってる、私にこのような格好が似合うわけがなかろう」
そう言ってシグナムは自分の着ている服を見た
淡いブルーのドレスで、胸元と背中が広く開いているタイプのもので
普段のシグナムであればどうだろう?という感じだが、今は髪を下ろし薄く化粧をしている
そのせいか、かなり様になっていた


話は5時間ほど前にさかのぼる

「シグナム」
「主、どうしました?」
「ちょお頼みたいことあるんやけど、ええか?」
「はい、私でお力になられるなら」
「シグナムやないとできんことや」
「?」
自分ではないとできない、その言葉にシグナムは首を傾げたが
主の頼みを断れるわけもなく、黙ってついていった

「クロノ君、入るで」
はやてはそう言って返事を待たずに扉を開く
「早かったな、ん?シグナムも一緒か」
「邪魔だったか?」
「いや、そういう意味じゃないよ」
クロノはそう言って席を立つ
「それじゃあ、はやて。準備を頼む」
「あ、その件やけどシグナムに頼むから」
「え?」
「あ、主、なんのお話ですか?」
状況の飲み込めないシグナムははやてに説明を求める
「簡単なことや、ちと恋人役をしてくれればええから」
「……」
「?シグナム」
はやての声にシグナムは一呼吸送れて驚きの声を上げた

「ええぇぇぇぇぇ?!」

「そないに驚くことか?」
「いや、僕も驚いてるんだが、どういうことだ?」
「まぁ、簡潔に言えばシグナムのほうが合うてる思てな」
「合ってるって…」
「だって、うちよりシグナムのほうがそれらしいやろ?胸とか」
と、その言葉に今まで硬直していたシグナムが口を開いた
「あ、主、いったいなにを仰ってるんですか?こ、こ、こ…恋…人…などと」
「別にふりだけなんやから、大丈夫やって」
なにやら狼狽しているシグナムにはやてがそう言ってなだめた
「クロノ君もそのほうがええやろ?」
「いや、それは…」
「ほとんどの娘は圧倒されると思うよ…胸に」
「主、胸を連呼しないでください……」
シグナムは顔を真っ赤にして抗議した
「…わかった」
「提督?!」
「まぁ、とりあえず話を聞いてくれ、返事はそのあとでいい」
そういってクロノはことの経緯を語りだした

簡潔にいえばクロノに惚れたという娘がいて
それなりの貴族の人間で、さらにはパーティに来てほしいと招待を受けた
断るにしても下手なことをすれば管理局のほうにとばっちりが来る可能性がある
そのため、最も安全で納得のいく断り方……
”実は付き合っている人がいます。ごめんなさい”作戦を思いついたのだ

「しかし、やはりこのネーミングはどうかと思うんだが?」
「えー?そうかな、結構いい感じやと思うんやけど」
「……」
なんか本気で言ってそうなはやてを無視し、クロノはシグナムに問いかけた
「というわけだが、協力してもらえるか?」
「つまり、私がハラオウンと付き合っている、と相手に思わせればいいのだな?」
「そういうことだ」
クロノの言葉にシグナムは静かに首を縦に振った
「うむ、そういうことであれば力を貸そう。主の頼みでもあるしな」
「そうか、じゃあ早速だが着替えてくれ。はやて頼む」
「はいはい、お任せ♪」
そして邪魔をしないよう、クロノは部屋を出た


と、言うわけで今に至る

「しかし、こういう格好をしなければならないとは」
「嫌か?」
「そうではないが…やはり落ち着かん」
「そういうな、すぐ終わる」
と、そこで二人に声をかけるものがいた
「クロノ・ハラオウン様ですね」
「ああ」
「お嬢様がお待ちです。こちらへ」
「分かった、それとこちらシグナム、彼女も共でいいか?」
「……」
クロノの言葉に執事と思しき男は少し眉をひそめたが
「…分かりました、それではどうぞ」

そして、二人は個室に通された
「…いったい、どういう生活をしているのだ」
「そんなに不思議か?」
「提督はそう思わないのか?」
「これでも”提督”なんでな、こういった場所には結構顔を出している」
と、そこで扉が開いて一人の少女が入ってきた
腰の辺りまである綺麗なライトブルーの髪を左右で纏めている、愛らしい娘だ
「はじめまして、フェルナンデ・ヴァン・ファルシュと申します」
「今回はお招きありがとうございます。時空管理局提督クロノ・ハラオウンです」
「お噂はかねがね、こちらこそわざわざ遠いところお越しいただきありがとうございます」
「それにしても、さすがというか立派ですね」
「そのようなこと、こちらは別荘なので地味ですの」
「……」
「あら?」
そこで、話に加わらず、正確にはついていけず黙っているシグナムにフェルナンデは気づいた
「こちらのお綺麗な方は?」
「ああ、ご紹介が遅れました。彼女はシグナム、私と同じ時空管理局のものです」
「そうですか、しかし今日はどうして?」
クロノだけくると思っていたのか、フェルナンデはそう問いかける
「それについてはこれから…」

ドカァァァァン!!

「きゃあぁぁぁ」
「なんだ?!」
いきなり広間のほうで爆発が起こった
そして、シグナムは即座に広間へ向かう
「シグナム?」
「様子を見てくる、提督はその方を御護りしてくれ」
言うが否や、疾風のごとくシグナムは駆け出す
「……」
「まったく…」
「……」
愚痴を言いながら微笑むクロノをフェルナンデは静かに見つめていた


「これは?」
シグナムが広間に到着するとありえない光景が広がっていた
「原住生物?しかし、なぜこのようなところに」
「危ないですから、早急に退避を!」
「そんなことできるか!あれがいくらしたと思ってる!!」
「そのようなことを言っている場合ですか!」
「うるさい!あんな貴重なもの、そうそう手にはいらん!」
「……」
どうやら、貴族の一人が購入した”ペット”が暴れだしたらしい
「原住生物の売買は禁止されている……規定に則り、排除する。レヴァンティン!」
『ja!』
そして、シグナムは甲冑に身を包む
「はっ!」
「ぐるるる…」
「手短に済ます…レヴァンティン、カートリッジロード」
『ja!』
シグナムがそう言ったと同時に、レヴァンティンの刀身が炎に包まれる
「はぁぁぁ…紫電一閃!」
「ぐるるぁぁるる…」
シグナムの一撃が原住生物に致命傷を与える、はずだった
「なに?!」
「ぐるるるる…」
「…装甲の硬いことだな」
「ぐるぁぁぁ!」
「ふっ!」
ドォォォォォン!
先ほどまでシグナムのいた場所は巨大なクレーターになっていた
「なんて、威力だ」
「ぐるるるる…」
「ならば…レヴァンティン!」
『ja!』
シグナムの言葉にレヴァンティンの形状が変化する
「これならばどうだ!飛龍一閃!!」
「ぐるぁぁぁ!」
シグナムの渾身の一撃が炸裂する


「…これなら」
しかし、煙の晴れぬうちにシグナムへ向け、強力な一撃が放たれる
「ぐるぁぁぁぁ!!」
「?!」
どぉぉぉぉぉぉん!
「…く……油断した」
「ぐるるる…」
「…く」
シグナムは次に来るであろう衝撃を前に、嫌な汗が流れる
しかし、その一撃はシグナムへ繰り出されることはなかった
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」
その言葉と同時に無数の刃が原住生物に突き刺さる
「ぐるるるぁぁぁぁ?!」
「これは…」
「大丈夫か?シグナム」
「提督!」
「ぐるる……」
「…今の攻撃があの程度か…少し厄介だな」
「…提督、少しの間足止めできるか?」
顔をしかめたクロノに、シグナムがそう問いかけた
「……一分でいいか?」
「いや、30秒あれば十分だ」
「ふ…任せておけ」
「ああ…」
微笑みあい、二人は地を蹴る

「お前の相手は僕だ!」
「ぐるる…」
クロノが原住生物の気を引いているうちに、シグナムは刀身を収める
「…見せてやろう、レヴァンティンのもう一つの姿を」
その言葉と同時に、刀身を抜き、鞘とあわせる。それとともにカートリッジをロード
「…シュツルムファルケン」
そして、剣は弓矢へと変化する
「ぐる?」
「…終わったな」
気配に気づいたか、原住生物がシグナムを見る…しかし、すでに遅い
「翔けろ、隼!」
弓が引き絞られ、矢が出現する。それと同時にカートリッジがロードされ、周りが炎に包まれる
『Sturm falken!』
そして、疾風のごとき一閃は原住生物を貫いた


「申し訳ありません、会場をこんなにしてしまって」
「いえ、あなたは自分の責務を果たしたのですから、お気になさらず」
そう言ってフェルナンデは微笑む
「そう言っていただけると助かります」
「それに……」
「?」
フェルナンデはシグナムのほうを見て一言
「こんなに素敵な方を放っておくことなど出来ないでしょう?」
フェルナンデの言葉に、シグナムはしどろもどろになりながらも、言葉を紡ぐ
「い、いえ、私など粗暴なだけで…その……」
「そんなことはありませんよ、あなたは爆音が聞こえてすぐに駆け出したでしょう?」
「え、ええ」
「だから、一人の死者もなく、物が壊れるだけで済んだのです。あなたが居なければこうはいかなかったでしょう」
「…」
「だから、もっと自身を持ってください…正直、あなた同性の私から見ても妬けるくらいお綺麗ですわよ♪」
「え?!」
「ふふ…」
シグナムの驚きように、フェルナンデは笑顔をもらした
「それでは、我々はこれで」
「はい、どうもありがとうございました」
「いえ、当然のことをしただけですから」
そう言ってクロノは微笑んだ


帰り道

「ところで、例の話はどうなったのだ?」
「ん?ああ、問題ない。分かってくれたよ」
「…そうか」
どこか腑に落ちないようなシグナムに、クロノは問いかける
「どうした?シグナムのおかげで上手く言ったんだ。もっと胸をはれ」
「…正直、邪魔だったのではと…な」
「なぜだ?」
クロノの言葉にシグナムは空を見上げ、続ける
「彼女は私のことを良く言ってくれた…だが、私から見れば彼女のほうがよっぽど良い人間だ」
「……」
「女らしさはもちろん、優しさも持っている…主とは違った意味で安心する」
「シグナム…」
「だから、私は……」
そこで、クロノはシグナムの手を握る
「?!提督」
「そういうことを言うな、君は十分女らしいし、優しい」
「は?!」
言葉の意味が理解できず、シグナムは呆けた顔をする
「正直、抱きしめてしまいたいくらいだ」
「?!」(赤
クロノの言葉にシグナムは一瞬で顔が真っ赤になった
そんなシグナムの様子に微笑みながら、クロノは言葉を続ける
「まぁ、そう自分を卑下するな。シグナムにしかない良さもある、君らしくあるのが一番さ」
「提督…」
「とはいえ、君にはいろいろ世話になったな、感謝する」
「…確かに、世話を焼いた」
「はは…」
「ふふ…」
二人はどちらともなく笑い出した


後日、フェルナンデから二人の結婚式にはぜひ呼んで欲しいとの手紙が来たとか来なかったとか……



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あとがき
 まぁ、もう少し甘い感じでも良かったんでしょうが……こんなんなりました(笑)
どうも、こういったどこかシリアス?な感じのほうが書きやすいんですよね
というか、ヴォルケンリッターの面々だと必ずクロノが出てくるのはどうしてでしょう?
やっぱ保護者だからかな(笑)



      
 
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