大切な友へ


  




「ディバインバスター!」
「?!」

ドォォォォン!!

『そこまで!お疲れさん、二人とも』
「はぁ…はぁ…」
「……」
「フェイトちゃん、怪我はない?ちょっと張り切りすぎちゃって」
「…え?あ、う、うん。大丈夫」
なのはの問いにフェイトは少し遅れて返事をした
「…ほんとに大丈夫?怪我してない?」
「う、うん。大丈夫だよ、なのは」
「そう、ならいいけど」
一応訓練のあとは検査をするようになっているので
なのははそれ以上何も言わなかった

その後、検査を受けて異常のなかった二人はアースラの喫茶室でおしゃべりしていた
「へぇ、そういうことがあったんだ」
「うん、大変だったよ。エイミィは服を脱ぎだすわ、クロノは愚痴をこぼすわで」
「わぁ、なんかすごかったんだねぇ」
と、ハラオウン家の酒乱どもの話をしていると不意に声をかけられた
「そういう話はこういうところではしないほうがいいよ、二人とも」
「え?」
「あ、ユーノ」
「相席いい?」
「あ、うん。どうぞどうぞ」
なのはに促されユーノは二人の向かいの席に座る
「珍しいね、ユーノがここに来るのは」
「まぁ、いつもは無限書庫にこもりっきりだからね。でも、合間をみつけて来る事は結構あるよ」
「そうなんだ、その割にはあまり見かけないけど」
なのはの言葉にユーノは肩をすくめてこう言った
「まぁ、ほとんど夜中だからね……誰かさんのおかげで」
「あー、あいかわらずなんだ」
「ユーノ、ごめんね」
「別にフェイトが謝る必要はないよ。それに、ある程度は気を使ってくれてるみたいだからね」
「そうなの?」
「うん、絶対にできないような仕事は回さないから……まぁ、夜中までかかるようなのはしょっちゅうだけどね」
「あ、あはは」
「…お兄ちゃんったら」
ユーノの言葉になのははから笑い、フェイトはクロノを非難した

その後、ユーノと別れた二人は自室に戻ることにした
「じゃあ、フェイトちゃん、2時間後に」
「う、うん…」
「…どうかした?」
「え?」
何か不安げな顔のフェイトに、なのはは心配になって声をかけた
「う、ううん。なんでもない」
「なら…いいんだけど、遠慮しないでね?どんな小さなことだっていいんだから」
「うん、ありがと。なのは」
フェイトはそう言うが、どこか元気がない
そのせいか、その後の演習でもフェイトはあまりいい成績を残すことは出来なかった

翌日

「フェイト、どうしたんだい?」
「アルフ、何が?」
「何がって…昨日もそうだったけど、らしくないよ」
「…そうかな?」
「…あのさ、何か悩みがあるなら相談してよ、力になれるかもしれないよ?」
「ほんとに大丈夫だから」
そう言ってフェイトは笑うが、やはりどこか無理をしているように見える
「お願いだから、あのときのようにはならないでおくれよ」
「え?」
「なのはたちと会う前さ、あのころのフェイトは自分を犠牲にしてた」
「…」
「フェイト、もうあのころとは違う、フェイトには気の許せる仲間がいるじゃないか」
アルフの言葉にフェイトは決意を固めるようにうなずく
「そうだったね…ありがとう、アルフ」
「それさ、フェイトは笑顔が一番♪」
「えへへ…」

そして、次の訓練日

「え?模擬戦闘?」
「はい」
「まぁ、確かに許可はあるけど…」
そう言ってエイミィは少し困った顔をする
それというのも”模擬戦闘”とは文字通り戦闘を行うものだ
無論、殺傷能力の高い攻撃など使用しないなど制限はあるが
ほぼ、一対一のマジバトルだ
「なのはちゃん、どうする?」
「私はできれば遠慮したいんだけど…」
そう言ってなのははフェイトのほうを見る
その顔は冗談で言っているような感じではない
むしろ、それが当たり前のような雰囲気さえする
「…やります」
「まぁ、二人が納得の上でなら言うことはないけど」
そう言ってエイミィは準備を始めた

「ごめんね、なのは」
「なにが?」
「私のわがままで…」
そこでなのははフェイトの唇に指を当て、黙って、と合図する
「こうすることでフェイトちゃんにとってプラスになるなら、私は喜んで協力するから」      
「なのは…ありがとう」
『はい、お二人さん。準備OKいつでもどうぞ』
と、その言葉がまさに合図であったかのように
なのはとフェイトはバリアジャケットを装備する

「いくよ、レイジングハート」
【All right My master】
「準備はいい?バルディッシュ」
【Yes sir】

そして、先になのはが仕掛けた
「シュート!」
計五つの光の弾をフェイト目掛け放つ
「バルディッシュ!」
【Scythe Form】
「はっ!せいっ!」
しかし、フェイトはそのすべてを叩き落す
そしてその間詠唱していた魔法を、今度はなのはに向けて放つ
「サンダースマッシャー!」
「レイジングハート」
【Axel Fin】
雷の帯が一直線になのはに向かう
しかし、なのはは高く跳び、避ける
だが、それを見越していたのかすぐ後ろにはフェイトの姿
「はぁっ!」
「くっ?!」
ガキィィン…金属のあたる音
咄嗟になのはは身体を捻り、フェイトの攻撃を受ける
「…さすがに、簡単には取らせてくれないね」
「それは、お互い様…だよ!」
そう言って、なのははフェイトを押し上げる
と、同時に距離を取る…なのはお得意の遠距離だ
「いくよ、フェイトちゃん」
【Shooting Mode】
「ディバインバスター!」
「バルディッシュ!」
【Defensor】
フェイトはとっさに防御壁を展開させる
「くぅっ…」
(さすが、そこら辺の魔導師とは比べ物にならない)
なんとか持ちこたえたものの、かなり力を消費してしまった
しかし、それでもフェイトは続けて詠唱を行った
「今度は…こっちの番!」
【Sonic Form】
シグナムとの戦いで行き着いた最速フォーム
スピードを極限まで高めたため、防御が薄くなるが
常人ではその動きを捉えることは出来ない
「はぁっ!」
「?!」
ガキィィィィン!
またも、金属音がぶつかる音
さすがのなのはもフェイトの姿を追うことは出来なかった
だが、そこは一応プロ…魔力の流れでとっさに受け止めた
「…悪いけど、新技ためさせてもらう」
「え?!」
「バルディッシュ、カートリッジロード」
【Yes sir】
「ソニックブースト!」
「?!」
その掛け声と同時、フェイトは掻き消えるようにいなくなった
いや、正確には目で追うことの出来ないほどの速度で動いているのだ
「受けて、私の全力」
そして、辺りに雷鳴が轟く
「サンダー・ソニック!」
ドゴォォォォォォン!!
雷の奔流となったフェイトがなのはへ渾身の一撃を放つ

「はぁ…はぁ…」
(防御する暇はなかったはず…)
しかし、そんな考えは甘かったとすぐにフェイトは気づく
なぜなら……
「…さすがだね、フェイトちゃん」
「?!」
振り向いた先になのはの姿
所々バリアジャケットにほつれなどはあるが、なのはは大したダメージを追ってはいなかった
「……」
「私の勝ち、だね」
そう言ってなのははレイジングハートを掲げる
いつの間にかフェイトの周りには光の弾が浮かんでいた
「…どうして?避けれる速度じゃなかったのに」
「私も、新しい魔法を覚えたの…ミラージュ・マリオネット」
「ミラージュ…マリオネット?」
「魔力の塊で分身を創るの…でも、魔力の流れとかからすぐに分かっちゃうけど」
「スピードが、仇になったんだね」
「ごめんね、でも手を抜いたら絶対フェイトちゃん怒るから」
「ふふ…さすがなのはだね……私の負けだ」
と、その言葉と同時にフィールドにエイミィの声が響く
『は〜い、お疲れお二人さん…正直焦ったよ、お姉さん』
「ごめんなさい」
本当に焦っていたようなエイミィの声色に二人は素直に謝る
『まぁ、無事に終わったんだから良しとしよう…上がってきて、データ処理のほうはこっちでしとくから』
「は〜い」

「…やっぱり、なのはには敵わないな」
「フェイトちゃん?」
「いつも、そうだったよね…私は…」
「フェイトちゃん!」
「え?!」
なにやら変な空気を感じ取り、なのははその先を封じる
「どうしたの、そんなこと言うなんて」
「…ただ、いつだってなのはすごいなって」
「私は、別に」
「ううん、今だって最速の攻撃を軽くいなした」
「…」
「私は…」
と、またも変な空気になりかけたのでなのははフェイトにこう提案した
「ねぇ、フェイトちゃん、このあと用事ある?ちょっとお話したいんだけど」
「え?…うん、別にいいけど」
「じゃあ、さっさと上がろう」

なのはとフェイトはフィールドを出て、少しシャワーを浴びたあと
食堂に来ていた
「それで、なのは。話って?」
「うん…ねぇ、何か言いたいことない?」
「え?」
「どんなことでもいいんだ、愚痴でも何でも…なんか、ずっとフェイトちゃん沈んでるから」
「なのは…」
「友達だもん、悩みがあるなら話して欲しいよ」
そう言うなのはの表情は少し寂しそうだ
(ああ、そうだった…なのはは人のことを第一に考えることのできる娘なんだ
そして、まるで自分のように泣いたり、笑ったり、怒ったりするんだ)
そして、フェイトは静かに話しだす…自らの思いを

「焦ってたんだ…ううん、正確には劣等感を抱いてたんだ、なのはに」
「え?」
「なのははすごい、魔法の力もそうだし、とても暖かくて
私にないものをたくさん持ってる」
「…」
「だから、置いていかれるような、見捨てられるような気がしたんだ」
「フェイトちゃん…」
「バカだよね、なのははそんなことしないって知ってるのに…だけどもしかしたらって
…そう思うとほんとにそんなことになっちゃう気がして」
「……」
「でも、それってただ私が逃げてるだけなんだよね」
そう言ってフェイトは一呼吸置く
「…自分に自信がもてないから」
「…大丈夫だよ」
「なのは?」
フェイトの言葉を聞いたなのはは静かに、でも優しい声色で続ける
「劣等感って、誰だって持ってるよ?もちろん私も」
「そんなことないよ」
「ううん、私何度かフェイトちゃんのこと羨ましいって思った事があるんだ」
「私、が?」
「うん、とても綺麗で強くて、憧れ、って言うのかな?こうなれたらなぁって思う
…でも、そんなこと出来ないんだよね、私は私でフェイトちゃんはフェイトちゃんだもん」
「…」
「人は完璧じゃない、誰でも短所を持っている…だけど、それを補い合える友がいれば
人は完璧に近づける」
「なのは…」
「にゃはは、これお父さんの受け売り…小さいときに学校で失敗して
みんなに迷惑かけちゃって、アリサちゃんとすずかちゃんは大丈夫だよ、って
ずっと励ましてくれて…そのときにお父さんが言った言葉」
「…」
「私に出来ないことはフェイトちゃんが、フェイトちゃんが出来ないことは私が…
そうやって、必要なところを補っていけばいいんじゃないかな」
なのはの言葉を静かに聞いていたフェイトはうなずき、口を開いた
「そうだね、やっぱり私焦ってたんだ…こんなに、いい友達がいるのに」
「フェイトちゃん」
「ありがとう、なのは…やっぱりなのはには敵わないや♪」
「にゃはは♪」
二人は笑いあった

後日

「はぁっ!」
「くぅっ?!」
『そこまで!…お疲れ、二人ともこれで模擬訓練は終了だ』
「はぁ…はぁ…」
「…なにやら吹っ切れたようだな」
「え?」
「以前の訓練では心ここにあらずという感じで退屈だったが…今日は楽しめた」
「…はい、ご迷惑おかけしました」
そう言ってフェイトは頭を下げる
「ふ…いつもそんな殊勝な態度ならいいのだがな」
「残念、今日だけです。そして、次の訓練でも私が勝ちます」
「言うようになったな、テスタロッサ…だが、次こそ私が勝つ」
そう言ってシグナムは拳を突きつける
そして、それに応えるようにフェイトも拳をぶつける
「望むところです」
「ふ…」

もう大丈夫
私は一人じゃない、だめな部分を補ってくれる”友”がいる
だから、私は強くなろう

自分のために…

大切な友のために…

そして…大好きななのはのために




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あとがき
 さて、いかがだったでしょう
まぁ、言うまでもないとは思いますがなのはとフェイトの新技はオリジナルです
なんとなく、こういった戦闘シーンのほうが書きやすいんですねぇ…なぜか


 
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