白衣の天使を独り占め?


   


「すみません」
「は〜い、どうしました?」
「訓練中に、ちょっと…」
「あらあら、気をつけないとだめよ…はい、今日一日は安静にしときなさい」
「はい、ありがとうございました」
「いえいえ、お大事に」

管理局医シャマル
その能力もさることながら、その人当たりのよさで
管理局員の人気者
一時期、癒されたいがためにわざと怪我をする隊員までいたほどだ
唯一の欠点とすれば、料理が壊滅的にだめなことか
しかし、そこが逆に良いと、さらに人気を集めることになった

「ふぅ、そろそろお昼時だし、終わってるかな?」


「そこ、遅い!訓練だと気を抜いていると大怪我するぞ」
「は、はい!」
「そっちも!詠唱時間中は無防備になるんだから、動いて撹乱させろ!」
「はい!」

隊員たちに檄を飛ばす青年の名は結城勇気
ランクはS、使用デバイスは二刀型でベルカ式魔導士
二刀型のデバイスを使用するものは珍しく、さらには
それを容易に使いこなすほどの実力を持つため
"ダブルブレイカー"という二つ名で呼ばれることがある
現在は、新兵訓練のため一時的に教導隊に籍を置いている

「そこまで!昼休憩後は各々自由にしてよし、ただし次の訓練で
 しっかり動けないものは特別訓練を課す」
「はい!」
「よし解散」

「…さて、いくか」
訓練を終え、勇気はいつもの場所へ向かう

「あ、お疲れ様」
「すみません、待ちましたか?」
「ううん、ついさっき来たとこだから大丈夫」
「それはよかったです」
そういって、勇気は先に来ていたシャマルの隣に座る
実はこの二人、付き合っているのだ
「どう?訓練のほうは」
「ぼちぼち、って感じですね。何せ人にものを教えるのなんて初めてですから」
「その割には、評判良いわよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、訓練を受けてから任務の成功率が上がった、って」
「それはその人が頑張ったからじゃないですか」
「それもあるんでしょうけどね…勇気君の訓練が役にたってるって事だと思うわよ」
「はは、それなら嬉しいですね」
「大丈夫、もっと自信を持って、ね♪」
「…はい」
笑みを浮かべるシャマルに、勇気も笑みを返す
「さて、じゃあいつもの、いいかな?」
「はい、どうぞ」
「それじゃ、えと…はい」
少し顔を赤くしながら、シャマルは小さな箱を取り出す
「今日は、ちょっと自身あるんだけど…」
「へぇ、それは楽しみです」
「で、でも、正直に言ってくれて良いからね?」
「大丈夫ですよ…それじゃ」
そういって、勇気は箱を開ける
「クッキー、ですね」
「う、うん」
箱の中にはいろいろな形のクッキーが入っていた
しかし、所々黒く焦げているものもあるようだ
「確かに、今までよりきれいですね」
「うん、少しでもきれいなやつを選んだから」
「それじゃ、いただきます」
そういって、勇気は星型のクッキーをほおばる
「…ん?!」
「!大丈夫、無理なら出して良いから」
「んん…ん、くん」
「だ、大丈夫?勇気君」
「はぁ…ええ、まぁ」
「やっぱり、美味しくなかった?」
「いえ、まずくはないですよ?」
「それって、美味しくもない、ってことでしょ?」
「ああ…まぁ、ええ」
その言葉に、シャマルはがっくりとうなだれる
「はぁ、やっぱり私にお料理なんて無理なのかな」
「いえ、今日のはほんと良いほうでしたよ、練習すれば大丈夫ですって」
「でも、美味しくなかったでしょ?」
「…」
「はぁ…ごめんね、勇気君」
「え?なにがですか」
「料理の一つもできない女で」
「いえ、それくらいのこと…」
「だって、男の子の夢なんでしょ?手作り料理って」
「まぁ、確かに好きな人に作ってもらえるってのは、そうですけど」
「…そうよね」
「あ、いえでも、上手下手ってそんなに重要じゃないんですよ?」
「そうなの?」
「ええ…あ、まぁもちろん上手いに越したことはないんでしょうけど
 一番大事なのは、相手ですよ」
「相手?」
「ええ…好きな人が、自分のためだけに作ってくれる、それだけで十分嬉しいんですよ?
 味とか関係なしに…それに、シャマルさんの場合、作り慣れてないのに頑張ってくれるから余計にです♪」
「…じゃあ、なおさら申し訳ないわよ」
そんな勇気の言葉に、シャマルはそう言って俯いてしまう
「ど、どうしてですか?」
「だって、そんな風に思ってくれてるなら、美味しい料理を食べてもらいたいじゃない」
「シャマルさん…」
「よし、決めた!勇気君、ちょっと時間頂戴」
「え?」
「次に勇気君に食べてもらうときは、美味しいって絶対言わせて見せるから!」
「は、はい…頑張ってください」
やる気十二分なシャマルに、勇気はそれしか言えなかった

−数日後−

「ふぅ、こんなものかな」
その日、自室にて訓練の報告書を作成していた勇気は
ふいに、数日前のことを思い出した
「そういえば、シャマルさん大丈夫かな」
あれから、シャマルと合う時間は短くなった
もともと、任務などで時間の合うことは少なかった
今回はさらに、シャマルが料理の猛特訓をしているらしく
それこそ数時間会えれば良い、というくらいだった
「なんか、ちょっと寂しい、かな」
と、そんなことを思っていると、ドアを叩く音が
「あ、はい開いてます」
「こんばんは…」
「シャマルさん?」
ドアを開けて現れたのは、シャマルだった
「どうしたんです、こんな時間に」
「えと、時間大丈夫かな?」
「あ、はい…というか、実はちょっと会えなくて寂しいかな
 なんて思ってたところだったんで、ちょっと驚いて…」
「そうだったの…ありがと」
「いえ、そんな」
「それで、ね…こんな時間で悪いんだけど…これ」
そう言ってシャマルは小鉢を取り出す
中に入っているのは…
「肉じゃが、ですか」
「うん、あれから練習して作れるようになったの」
「あ、じゃあ最近忙しそうだったのは」
「まぁ、半分くらいは、これ」
そう、恥ずかしそうに言うシャマル
「んと、よければ食べてもらえるかな?今までよりはよくできたと思うから」
「ええ、もちろんいただきます…あむ」
「…どう?」
「ん…うん、美味しいです」
「ほんとに?」
「ええ、普通に美味しいですよ。今までみたいに鉄の味がしたり
 料理らしからぬ食感だったり、まったく別の味がしたりせず
 普通に美味しいです」
「うぅ、ごめんなさい、いろいろと無理させちゃって」
勇気の言葉に、涙を流しながら項垂れるシャマル
「あ、あれ?何か変なこと言いました?」
「ううん、事実を突きつけられただけ、勇気君は何も悪くないの」
「いえ、なんかすみません、失礼なこと言っちゃいました?」
「いいの、ほんとに気にしてないから、なんだかんだで今まで作ったもの
 残さず食べてくれてたし」
「それは当然ですよ…あむ…うん、この肉じゃがはほんと美味しいです」
「ありがと」
そう言う勇気に、シャマルは笑みをこぼす

その後、二人は寄り添う形でソファに腰掛け、他愛無い会話を交わす
「でも、ここまでしてもらっちゃうと逆に申し訳ないですね」
「?どういうこと」
「だって、俺のために自分の時間削ってまでがんばってくれてるのに
 俺は…」
「ストップ」
言葉を遮るように、シャマルは少し強い口調になる
「そういうことは言わない…だって勇気君にお返ししたくてやってることなんだから」
「?」
「…結城君と一緒に過ごしていろんなものをもらったし、
 いろんなことを教えてもらった」
「…」
「今までのこともあったろうけど、こういう安心できる場所ってなかったから」
「シャマルさん…」
「他にもいっぱい、それこそ数え切れないくらい大切なものをもらった
 …そういうものをくれた結城君に恩返しがしたかった」
「…」
「大げさ、って思われるかもしれないけど、それくらい感謝してるの、結城君には」
「そんな、俺は…」
「それにね…」
言葉をさえぎるように
ことん、と勇気の肩に自分の頭を乗せるシャマル
「こうやって、傍に居て、甘えさせてくれる…それだけでも十分なんだから」
「シャマルさん…」
「だからね、これからも…私の傍に居てくれる?」
「当然です…むしろ、離れる気は毛頭ありませんから、たとえシャマルさんが嫌と言っても」
「勇気君…」
「だから、シャマルさんもして欲しいことやお願いがあれば言ってください
 俺ができることなら、喜んでやりますから」
そう、笑みを浮かべる勇気
「…うん、ありがと」
「いえ」
それきり言葉を交わすこともなく、寄り添いながら互いのぬくもりに浸っていた

どれほどの時間がたっただろうか、不意にシャマルが口を開く
「…ねぇ、勇気君」
「何ですか?シャマルさん」
「…さっき言ってたお願い、なんだけど」
「はい、俺にできることならどうぞ」
「…ほんとに?」
「ええ、遠慮は無用です」
任せておけ、と勇気は笑みを浮かべてシャマルを見る
「…んと、ね…その…」
「?」
言いにくいことなのか、シャマルは顔を俯けて小さくつぶやくだけだ
「ほんとに遠慮とかいりませんよ?シャマルさんがしたいことがあるなら、俺は協力しますから」
「うん…そのね、繋がりって言うのかな?なんか、そんな、ね…」
「繋がり?」
「う、うん…その、好きな人同士が互いの想いを確かめることというか」
「…?」
「えっとね…その…一緒に、寝る…っていうのは、どうかな?って…」
「一緒に…ね…寝る?!」
「う、うん…」
ようやく理解できたのか、大声を出してしまう勇気に
頬を真っ赤に染めて俯くシャマル
「いや、あの、え??」
「嫌?」
「そ、そそそそんなことは?!…でも、その」
「…だめ?」
「うぐ!?」
頬を染めつつ、上目遣いでそう呟くシャマル
当然、勇気にはその攻撃を耐えられる術もなく
「…その、止められなくなると思いますよ?」
「…大丈夫、勇気君なら…うん」
「シャマルさん」
「勇気君」
そっと、二人は唇を重ねた

後日

「♪〜♪」
「ご機嫌ですね、シャマルさん」
「あ、なのはちゃん」
「こんにちは…何か良いことでもあったんですか?」
「ふふ、ちょっとね♪」
「そうですか」
「それで、どうかしたの?」
「えと、はやてちゃんからちょっと伝言を」
「はやてちゃんから?なにかしら」
「今度一緒に寝るときは戸締り確認を、だって」
「…」
しばしの沈黙
「…?!!!!え、ちょっとなのはちゃん」
「は、はい?」
「そ、それって、あの、その…」
「えと、詳しくは知りませんけど…そういう?」
なのはの言葉に、シャマルは顔を真っ赤にしてうなずく
「あ〜…がんばってください?」
「…うん、頑張る…」

その後、はやてに口外しないよう頼みにいったのは言うまでもない…


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あとがき
 はい、ということでかなり遅くなりすみません…
というか、前過ぎていつだったか覚えが…orz
と、とにかく書ききることができましたんで楽しんでいただければと…


      
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