永久の幸福


  




「う〜ん・・・」

ここは海鳴市にあるショッピングモール
この近辺では最も品数の多いところだ
その中の宝石コーナーの前でクロノは悩んでいた

「やはり、こういったものはやめておいたほうがいいな」
「・・・・」
(いや、しかし女の子はこういったものの方が喜ぶよな)
(だが、正直こういうものの価値というか趣味がわからない。不要なものを贈るわけにはいかないしな)
「・・うん、もう少し見て回ろう」


「ここは・・花、か」
クロノの前には色とりどりの花が並べられている
(しかし、花などすぐに枯れてしまわないか?)
(そうだ、僕たちはいろいろな任務で留守にすることが多い、ならこういうものは止めたほうがいいだろう)
「よし、次だ」

「服・・か」
次にクロノが向かったのは衣服を取り扱っているコーナー
(しかし、趣味がどういうのかわからないな)
(下手なものはかえって着づらいだろうし、第一、僕にセンスがあるかどうかは疑わしい)
「・・・・・自分で言うのもなんだが、へこむな・・・気を取り直して次だ」

「ぬいぐるみ・・・」
いい加減決めねば、という感じで次にやってきたのはぬいぐるみなどファンシー雑貨のコーナー
(結構いろいろなものがあるんだな・・・)
(でも、正直どれがどれかわからん)
「第一、これも花とそう変わりはないだろう・・・というわけで次だ」

などといった感じで見て回ったクロノだったが
これといったものを見つけることはできなかった

「はぁ〜、しかし本気でどうしたものか」
結局のところどうしてここまで必死になっているのかよくわからない
もちろん今探していることに意味がないとはいわないが
「・・それとも、もともと僕にはこういったことは似合わないのかもな」
(大体、今までこういったことをしたことはないんだ)
(そんな僕がフェイトにお返しの品を贈るなど)

「どうしたん?こんなとこで」
「え?」
不意に声をかけられクロノは反射的に顔を上げた
「珍しいな、クロノくんがこないなとこにおるんは」
「はやて・・」
「あ、もしかして夕飯の買出しか?リンディさんに頼まれて」
「違うよ、大体今はフェイトが自分の仕事だってやらせてくれない」
「あはは、フェイトちゃんがね」
はやてはそういって朗らかに笑った

「はやては・・聞かなくてもわかるか」
そういってクロノははやての持つ袋を見た
「あはは、まぁそやな」
「毎日大変だな、彼女たちのためとはいえ」
「そないなことないよ、大体好きでやっとるからな」
「好きで・・か」
「・・・どないしたん、元気ないようやけど」
「ちょっと・・・な」
クロノにしては珍しく歯切れの悪い返事をしたからか
はやてはクロノに詰め寄った
「クロノくん、悩みがあるんやったらうちが相談にのるで」
「え?」
「悩み、いうか困っとるんやろ?せやったらうちが相談にのる言うてんの」
「・・・・」
「解決せんでも、話すことで楽になることもあるで」
「・・・そう、だな」
はやての真摯な気持ちが伝わったのか
単に相談したほうがいいと思ったのかわからないが
クロノははやてにすべてを話した


「なるほど、フェイトちゃんにバレンタインのお返ししたいけど何を贈ればええか分からん、と」
「そういうことだ」
「せやったら、別に悩む必要ないおもうけど」
「そんなことないよ、下手なものを渡して不快にさせたくないじゃないか」
「・・いいお兄ちゃんやね」
「な、何を言ってるんだ。僕は人として当然のことを・・」
「はいはい、ほないこか」
「あ、こらまだ話は・・・」
そんなクロノの抗議を無視し、はやてはさっさと歩いていく
仕方なく、クロノもそれに続く


「ほい、到着」
「ここは・・」
二人がいるのはショッピングモールの外
駅近くの舗道だ
「今ちょっとした人気なんよ、シルバーアクセサリー」
「シルバーアクセサリー?」
「まぁ、簡単な銀の装飾品やけど、値段も手頃やし、いろんな形があるから人気あるんよ」
「ふぅん・・」
確かにはやての言うとおり安いものは千円前後、高くてもせいぜい三千円程度だ
そして形も普通のハート型やクロス型からドクロマークのような特殊なものまで多種多様だ
「いらっしゃい、どうだい?彼女に買ってかないか、お兄さん」
「いややわぁ、うちがクロノ君の彼女やなんて」
「そうだ、彼女はただの友人だ」
「・・クロノ君、ホンマでもこういうときは話し合わせてくれへん?」
はやての言葉にクロノはなぜだ?という顔をする

「あはは、まぁ関係はどうでもいいが、どうだい?今なら少しは安くするぜ」
「ふむ、なにかいいものはあるのか?」
「そうだなぁ、最近は結構いろんな趣味の人がいるから一概には言えねぇが・・これはどうだ」
そういって店の男はひとつの指輪をさす
「結構簡単なつくりだがシンプルだって人気あるぜ」
「う〜ん、そういうものじゃなくて」
「なら、どういったものがいいんだ?言ってくれりゃあ見立てるぜ」
「じゃあ・・・女の子、妹なんだがお返しに何か贈りたいと思ってな」
「ふむ、女の子にだったら・・・ここらあたりか」
そういって男はいくつかのアクセサリーを取り出した
形はどれも花の形をしていた、薔薇、桜、椿など結構いろいろな種類がある
その中で、クロノはひとつ不思議な形のアクセサリーがあるのに気づいた
「・・ん?これはなんだ」
「ああ、福寿草って花だ。珍しいもんでな、アクセにもあまり使われないらしい」
「ふ〜ん」
(だが、なんかいいな。フェイトにはこういうシンプルなほうが似合いそうだ)
「せや、お兄さん、花言葉って知ってる?」
「ああ、これでも元は花屋の息子でね、時代の煽りで潰れちまったが」
そういって男は肩をすくめた
「せやったら、福寿草の花言葉も知ってる?」
「ああ、福寿草の花言葉はな・・・」



3月14日

「フェイト」
「ん?クロノ、どうしたの」
「ちょっと、いいか?」
「いいけど、ここじゃだめなの?」
「・・まぁ、人もいないしいいか」
そういうとクロノは懐からひとつの箱を取り出した
「これ」
「え?」
「バレンタインのお返しだ、安物だが」
「・・開けて、いい?」
「ああ」

「・・これ、ホントにいいの?」
「ああ、君のものだ」
「でも・・・」
「いいから、もらってくれ。まぁ、気に入らないなら別にいいが」
「そ、そんなことない!すごくうれしいよ」
そういってフェイトは箱を大事そうに抱えた
「でも、これなんだろ?菊・・じゃなさそうだね」
「ああ、それは福寿草というらしい」
「ふくじゅそう?」
「僕もよくは知らない、店の人に選んでもらったようなものだからな」
クロノは恥ずかしそうに横を向いた
「・・そっか」
「・・・・」
「大事にするね、クロノ」
「・・・・・”永久の幸福”
「え?」
ぼそり、とクロノはそうつぶやいた

「・・花言葉。福寿草の花言葉だ」
「・・・・」
「べ、別に深い意味はない、君の生まれがどうということではなく、その、兄として、やはり幸せになって欲しいというか」
「クロノ・・・」
「ああ、だからそうじゃなくてだな・・その、なんと言うか・・・・」
そんな風に狼狽するクロノを見て、フェイトは無性に嬉しくなった
そして、自然に自分の気持ちを表していた
「ありがとう、クロノ」
「わ、こらフェイト。だ、抱きつくな、離れろ」
「やだ♪」
「やだ・・て、おい!」
「えへへ・・」


翌日、運悪くその現場を目撃していたエイミィにその後クロノはしばらくの間頭が上がらなかった


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あとがき
 来須ユタカ様よりホワイトデーssのリクエスト、クロノ×フェイトです。
内容としてクロノがお返しに何を贈るか悩んだ末、シルバーアクセサリーを贈るというお話です。
希望として指輪かペンダントを、ということでしたのでペンダントのほうにしました。
ご期待に沿えるものであればいいのですが・・・
ちなみに花言葉は調べたんで間違いないと思います。気になる方は”福寿草”で検索してみてください(笑)


 
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