彼と彼女と遊園地


   




「はい、おしまい」
「あたっ?!…シャマルさん、叩かないでくださいよ」
「あのね、こう毎回来られるとこっちとしては気が気じゃないのよ?」
「…すみません」
「…まぁ、タケシ君の性格なんでしょうけど気をつけてね」
「はい」

そう、うなずく青年の名は小野寺タケシ
管理局本局のSランク魔道士
使用デバイスはナックル型
もともとの身体能力も然ることながら
デバイスの付加効果もあり、いくつもの任務を請け負っている
だが、そのため生傷が絶えないことも…

「あんまりひどいようだと、ティアナちゃんが悲しむわよ」
「はは、それは避けたいですね」
「でしょ…という事で、呼んであります」
「…え?」
と、いきなり扉が開き
「タケシ!」
「わ?!ティア」
「…」
「いや、あのね?ティア」
「話はあとで聞きます…シャマルさん、ありがとうございます」
「いえいえ、お大事にね〜」
「はい…さ、行くわよ」
「…わかりました」

「まったく、いつもいつも」
「…」
「聞いてる?!」
「はい!」
「…ふぅ、罰として次の休み付き合いなさい」
「え?」
「もちろん、全部そっち持ちで…遊園地なんかいいわね」
「…それって」
「いい?絶対だからね」
「…了解♪」

数日後―

「…少し早かったかな」
待ち合わせの場所についたタケシは周りを見渡すが
探し人はいないようだ
「まぁ、遅れるよりはいいよな」
そう思い、しばらく待つことに

「…そろそろ時間だけど」
時計を見ると、約束の時間5分前
「おかしいな、時間は厳守するはずなんだけど」
と、改めて周りを見ると
「あれ…」
すごく綺麗な女性がいるのに気づく
清楚な白のワンピースに、セミロングの綺麗な髪
薔薇をあしらった帽子をかぶっている
よく見ると、道行く人が必ずといっていいくらい目を向けている
「…」
しかし、若干の違和感
それはなぜか…よく知っているような感じがするのだ
「?」
「!」
と、その女性がこちらを向く
「ちょっと、来てるなら声かけてよ」
「…え?」
「え、じゃないわよ、遅れてるわけじゃないけど
 声かけずにいるなんて、失礼でしょ」
「…?」
「…?」
二人して首をかしげる
どうも、会話がかみ合っていない
…と、そこでタケシは違和感の正体に気づく
「もしかして…ティア?」
「…ほかに誰に見える?」
「いや、だって、え?あ…うん」
「なによ、煮え切らない…ああ、うん、そういうこと」
なにやら納得したように頷くティアナ
「これ、のせいよね」
そういって、自分の服を指す
「…まぁ、どうしたんだ?」
「…スバル」
「え?」
「スバルよ…デートならお洒落しなきゃ、なんていって無理やり」
「ああ、そういうこと」
そのときの光景が目に浮かぶようだ
「…変でしょ」
「ん?」
「この格好、似合わないわよ私には」
「そんなことないよ、すごく綺麗な女性だな、って思ったし」
「…そうなの?」
「うん、声かけなかったのはそれのせい」
「ふ、ふ〜ん…べ、別に嬉しくないわよ?こんなことで褒められたって…」
「それは残念…じゃあ、行こうか?」
「…うん」

「遊園地なんて久しぶり」
「そうなの?スバルとは来てるんじゃないの」
「誰が好き好んで同姓と遊園地に…大体、あっちはあっちでお楽しみよ」
「ああ、なるほど」
その言葉に納得する
「そんなことより、さっさと行くわよ?時間は有限なんだから」
「了解…じゃ、最初は何にする」
「遊園地、と言えばこれしかないでしょ♪」

「なるほど、確かに目玉だ」
「でしょ♪」
最初に目をつけたのは遊園地の花形といってもいいジェットコースター
やはり人気があるのか、結構人が並んでいる
「ま、この待つ間も醍醐味といえばそうか」
「まぁね」
そして、約30分後順番が回ってくる
「さぁ、ここはどんなもんかな♪」
「ティアってこういうの好きなほう?」
「割とね」
と、会話している間に頂上についたようだ
このあとは、ただ重力に任せ落ちていくだけ…
「お…」
「き…」
ガタン!!
「おおおぉぉぉ?!!」
「きゃあぁぁぁ♪」

「…結構、回ったね」
「そうね、結構楽しかったわ♪」
「…ま、確かに」
「んじゃ、次はあれね」

そして、次に目指したのは

「…フリーフォールか」
「何でも、ビル50階に相当する高さから落ちるんですって」
「…結構高いよね?」
「だからいいんじゃない♪」
「…」
その笑顔を見たとき、彼は悟った
彼女は"本気"でこういうのが好きなのだと…

その後、数種類の絶叫マシーンを味わったあと
時間もお昼時だということで、食事にすることに

「…正直、あまり食欲ないかも」
「…ちょっと、はしゃぎすぎた?」
「あ、いや別に楽しくなかったわけじゃないけどさ」
「そっか…まぁ、作ってきた分が無駄になるけど仕方ないよね」
「…?」
と、ティアナの言葉に気になるフレーズがあることに気づく
「…作った、って言った?」
「?ええ、サンドイッチ。有り合わせでも作れるからちょうどいいかと思って」
「…ティアの手作り、だよね?」
「そう言ってるでしょ?…まぁ、作った、っていえるような代物じゃないけどね」
「じゃあ、確認しよう♪はい、出して」
「え?でもさっき…」
「♪」
「…ほんとに大したものじゃないんだからね」
タケシの笑顔攻撃にティアナは仕方ないという感じでバスケットを差し出す
「おおぉ〜♪」
「別に珍しいものじゃないでしょ」
「いやいや、彼女の手作り弁当は世の男の憧れです!」
そう、力説するタケシ
「そういうもの?…まぁ、いいか」
「うん、いいの♪…さぁて、どれから食べようかな♪」
バスケットの中には色とりどりの具が挟まったサンドイッチが
定番のツナ、卵から手が込んでいると思われるハンバーグまで
続けて食べても飽きが来ないようなラインナップだ
「んじゃ、この美味そうなハンバーグサンドから…あむ♪」
「…どう?」
「美味い♪」
「…そう、よかった♪」
「うん、美味い♪…でも、これって結構手間かかってるだろ?」
「なんで?」
「だって、ハンバーグはもとよりソース、市販のじゃないだろ?」
「…よくわかったわね」
「まぁ、それくらいの舌は持ってる…で?」
「べ、別にタケシのためじゃないわよ?たまたまハンバーグが食べたくなって
 どうせならソースも作ってみようかなぁ、って」
「うん」
「そ、それでデートなんだし、お弁当くらい作るべきかなって思って
 ちょうど残ってたし、それを入れただけで決してあんたのためじゃないんだから!」
「そかそか♪」
「ちょ、わかってるんでしょうね?!」
「わかってるって♪あむ…うん、美味い♪」
「…ったく」
笑顔でサンドイッチをほおばるタケシ
少し不満顔のティアナだが、それほど気にはしていないようだ

昼食後、午前にあらかた絶叫マシンに乗ったこともあり
午後はのんびりとしたものを中心に乗ることに

「コーヒーカップって、微妙に恥ずかしいよね」
「メリーゴーラウンドよりはましでしょ」
「あ〜、確かに」
「あ、そういえばこれって隠れ絶叫マシンらしいわよ」
「は?なにそれ」
「ほら、中心のを回すと回転数が上がるでしょ?それを際限なくすると…」
「あ〜、わかった」
それを想像したのか、少々青ざめた顔をするタケシ
「ま、それさえしなきゃ普通の回るカップよ」
「うん、そっちでいこう」

「じゃあ、次はこれも定番お化け屋敷だ」
「…それはやめましょう」
「え?」
「ほら、あっちのミラーハウスにしましょう」
「…」
「…何よ?」
「…怖いんだ」
「な?!そんなわけないでしょう!」
「じゃあ、いこうか」
「うぐ…」

「わきゃぁぁぁ?!」
「大丈夫、作り物作り物!」
「いやあぁぁぁ?!」
「スタッフ、スタッフの手だから!」
「$☆%*…」
「生きてる、スタッフが変装してるだけ!」

「はー、はー…」
「ごめん、ここまでとは」
「…何が?別に怖くなんてなかったわよ、楽しかったじゃない」
「…うん、二度と入らないから安心して」

そんなこんなで、気づけば空も茜色に染まり
帰路に着く人々も目立ったころ
最後ということで、二人は観覧車へ

「やっぱり、最後はこれよね♪」
「ん?」
「デートで遊園地に来たら、最後にこれに乗るのはお約束、ってこと」
「ああ、なるほどね」
「…」
「…」
それきり、しばらく会話らしい会話はなく
ゴンドラはどんどん頂上へと上っていく
「…あのさ」
「ん?」
「…この前はごめん」
「は?なにが」
「…怒鳴ったこと」
「…ああ」
一瞬意味がわからなかったが
デートに誘われた日のことだと気づく
「別にティアが謝ることはないだろ?」
「でも、タケシだって好きで怪我してるわけじゃないでしょ」
「そりゃそうだけど…」
「だから、ごめん」
「…それは違うな」
「え?」
「不謹慎かもしれないけど、嬉しかったんだ」
「嬉しい?」
「うん…だってさ、ああやって怒ってくれるって事は 
 心配してくれてるってことでしょ?」
「当たり前でしょ…好きな人のことを心配しないわけないじゃない」
「うん…だから嬉しかったんだ」
「タケシ…」
「だから、謝るようなことはなし…OK?」
「…うん」
そして、ちょうどそのときゴンドラが頂上に着いた
「…ティア」
「ん?」
「…好きだ」
「?!な、なによ唐突に」
「ずっと思ってることだよ?僕はティアみたいな娘を彼女にできてすごく幸せだ」
「…///」
「…ティア」
「え?あ、ちょ…」
「…いや?」
「そうじゃないけど…その」
「誰に見られてるでもないし…ね?」
「…結構強引なのね」
「相手がティアだからね♪」
「…もう」
呆れたように言いながらも、ティアナは目を閉じる
「…ティア」
「ん…」
そして、二人の唇が重なった
そんな二人を、オレンジ色の夕日が暖かく照らしていた…

帰り道―

「今日は楽しかったわ」
「うん、僕も」
「…」
「…」
それきり、二人は会話もなく歩く
そしていつも別れる公園に差し掛かったとき
「…あのさ」
「ん?」
「…今日、寄ってもいい?」
「…へ?」
「…何よ」
「いや、その…そういうこと?」
「…ばか」
そう言って俯くティアナの頬は真っ赤に染まっていた
「…うん、どうぞ」
「言っとくけど、別に離れたくないとかそういうのじゃないんだからね!」
「ほんとに?」
「…」
「…」
「…嘘、今日はずっと一緒がいい」
「うん、僕も一緒にいたい」
「…ばか♪」
「はは♪」

二人して顔を赤くしつつも、微笑みあうのだった…



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あとがき
 はい、ということで遅れてしまい申し訳ありません…
まぁ、その分しっかりとできた…はず(を
とりあえず、ティアのツンデレっぷりが上手くできてたらそれでよし(笑)




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