一つの宝物


  

「…旦那」
「アギトか、どうした?」
「いや、体のほうどうかな、ってさ」
「ああ、悪くない。アギトの作ってくれたお茶が効いたのかもな」
「なら、いいんだけど…」
そういうが、アギトの表情は曇ったままだ
「…心配はいらん、成すべき事を成すまでは死にはしない」
「…それって、やること終わったら死ぬ、って事?」
「…わからん、だが少なくとも今は大丈夫だ」
「…わかったよ」
いまいち納得はできないが
ゼストの性格はよく知っているので、アギトはそれ以上何も言わなかった

「…アギト、どうしたの?」
「あ、ルールー」
ふらふらと、考え事をしながらその辺を飛んでいると
ルーテシアに声をかけられた
「…悩み?」
「悩み、ってほどでもないんだけど…」
「…私でよければ、聞くよ?」
「…ありがと、ルールー」
普段、感情を表に出すことはないルーテシアだが
こういう何気ないときに、ほんのわずかだが感情を覗かせる
「実は、旦那のことでさ…」
「…ゼストの?」
「なんていうか、気が気じゃないんだ、旦那を見てると」
「…」
「いつか、ぱっと、消えちゃうって言うか、気づいたらいなくなってるかもしれない
 なんか、そんな不安があるんだよ」
「…そっか」
「ルールー、あたしはどうしたらいいと思う?」
アギトの問いに、ルーテシアは珍しく微笑み、こう言った
「アギトの、したいようにすればいい」
「あたしのしたいように?」
「うん…私は、アギトの持っている感情を理解できない…でも、その感情はとても大切なもの
 …アギトだけの、宝物」
「宝物…」
「ゆっくり、考えればいいと思う…まだ、時間はあるんだから」
「…」

それから数日後

「あのときのリベンジだ、今度は負けねぇぞ!」
「…こちらにも、負けられぬ理由がある」
「じゃあ、やるしかねぇな…リイン」
「はいです」
「ユニゾンイン!」
「こちらも行くぞ、アギト」
「了解!」
互いにユニゾンする
「リイン、あいつの大技には注意だ」
『はいです』
「…一撃がでかい、速攻で決めるぞ」
『合点!』
「いくぜぇ!」
「ふっ!」

二人が交戦してどれくらい経ったろう
それは、唐突に訪れた
「…やるじゃねぇか」
「ふ…?!」
『旦那?!』
突然、ゼストがひざを折る
「なんだ?」
『なんか、苦しそうです』
「!…ぐ…」
『こんなときに!?…くそ』
そして、ゼストの周りに火の塊が数個出現
『いっけぇ!!』
そして放たれる
「アイゼン!」
『Jawohl!』
「シュワルベフリーゲン!」
だが、ヴィータは冷静に取り出した鉄球を、正確に打ち出し火の塊と相殺させる
『旦那、今のうちに撤退だ!』
「ぐ…やむをえんか」

「かはっ!…はぁ…はぁ」
「…旦那」
「…ふぅ…大丈夫だ、落ち着いた」
そうは言うが、やはりまだ悪いのか脂汗が浮かんでいる
「…旦那、もうやめよう」
「?どうした、アギト」
「どうしたもこうしたも、そんなになるまでする必要があるのか?!」
「…」
「あたしには、わかんない…」
そう言って、アギトはうつむく
「…心配してくれるのはありがたい…だが、俺は一度死んだ身だ」
「!」
「今ここにいるのも、つかの間の幻に過ぎん…だが、今は確かにここにいる
 だから、成すべき事を成す…それが、神のいたずらだったとしてもな」
「…」
「だが、お前やルーテシアは違う。これからの時を生きていく、そしていずれ幸福を得られるだろう
 だから、気にするな。危険になればいつでも俺を捨てていけ、誰も咎めはしない」
「?!」
ゼストの言葉を聞いたとき、アギトの胸に鋭い痛みがはしった
まるで、その身を引き裂かれるような
そして、それを理解したとき、アギトの胸にある”宝物”が
壊れやすく、簡単に消えてしまうものであると気づいた
「…旦那、幸福を得られる、って言ったよな?」
「…ああ」
「なら、あたしはもう幸福を得られてる」
「なに?」
ゼストの問いに、アギトは笑顔で
「旦那と一緒にいるから♪」
「…」
「あたしは、旦那といるときが一番楽しい
 幸せってそういうもんだろ?だから、何があっても旦那はあたしが護る」
「…気持ちはありがたい、だが…」
「んじゃ、ここであたしを殺しなよ」
「!」
「旦那と一緒にいれない、っていうならそのほうがましだ」
「アギト…」
「なぁ?あたしそんなわがままなこと言ってるか?」
「…」
「特別なことなんて望まない、ただ今までどおり…旦那と、いたいだけなんだ」
そう、静かにだが確固たる意思を持った瞳でアギトはゼストを見る
そして…
「…好きにしろ」
「え?」
「…アギトが、それで幸福だというのなら、俺は何も言わん」
「…旦那」
「…いっておくが、気の聞いたセリフなど言わんからな」
「あはは、わかってるよ♪」

こうして、アギトはたった一つの”宝物”を手にした
たとえ、それが長くは持たないものだとしても

今、ここにいて、そして触れられる…それだけで、十分なのだ




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あとがき
 はい、というわけでゼス×アギいかがでしたでしょうか
実は、web拍手のほうにこの二人もいい、ってのがありましてね
まぁ、一応話しは考えていたんでそれなら、って事で書きました
バカップル、って感じではないですが…それはまぁ、おいおい、って事で(笑)

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