それは悲しい願いなの


  

第2章 出逢い




私がアルと出逢ったのは今から5年位前
まだ、私が親と暮らしていたころ
それほど裕福ではなかったけど、それなりに暮らしていける位の蓄えはあった
そんなごく普通の家での暮らし・・・ただ他と違ったのは・・・



「まったく、とろいね」
「ごめんなさい・・」
「誤るくらいなら、さっさと掃除する!」
「はい・・」
「・・たく、なんで私があんなやつの子を引き取らなきゃならないのよ」
「・・・・・」


私の両親は別れていた。原因は知らない、でもお母さんは別れたお父さんを嫌っていた
だから、その子供である私も嫌いだった・・・


「ほら、掃除が終わったら洗濯。のんびりしてる暇はないよ」
「・・はい」

正直、自分の中でどうしてこんなになってまでここにいるのか、なぜここに留まるのか
問いかけているもう一人の自分がいた・・・でも、きっと答えは簡単だ

「ほら、早く食べな、まだまだ仕事は残ってるんだからね」
「はい・・」


私のお母さんだから・・・


そんな生活がどれくらい続いただろう
私はお母さんの手伝いで村に買出しに出かけた
そして、そのとき事件は起こった



「?!」
買出しの帰り道、私はいきなり後ろから襲われた
「おとなしくしろ」
「んー、んー!」
「ちっ、こんな元気だなんて聞いてねぇぞ」
「所詮ガキだ、このまま連れてくぞ」
「そうだな」
「んー!!」


「きゃっ」
「へ、ここなら誰もこねぇだろ」
「そうだな」
そういって二人のうちの一人、小柄な男は周りを見た
ここはくたびれた小屋の中、周りの感じからもうかなりの間使われていないことが分かる
ただ、小屋の周りは木々が生い茂り、外からはほとんど見えない
そのため、まず、人は来ないだろう
「ほら、早いとこ犯っちまおうぜ」
そしてもう一人、巨漢、というほどではないが先ほどの男と比べると
大柄な体格だ、は少女の服に手をかけた
「きゃっ、な、なに?」
「へへ、決まってんだろう?てめぇの身体をいただくんだよ」
そういって大柄な男は嫌な笑みを浮かべた
「?!いやぁぁぁ、だ、だれか!」
「おおっと、逃がすわきゃねぇだろ?」
「あぅ・・」
逃げようと走り出したが、相手は大柄な男だ
年端もいかない少女が逃げ切れる相手ではない
「いやぁぁぁ?!、助けて、お母さん!」
「・・・うっせぇな、そのお母さんに売られたんだよ、お前は!」
「え・・・?」
「おい、それは言わないのがせめてもの情けではないのか?」
「へ、そんなこといちいち気にしてられるか」
「うそ・・・お母さん・・」
「・・信じらんねぇか?てめぇは売られたんだよ。金貨二枚でな」
「!!」
その言葉とともに少女の身体は力を失った
「おっと・・」
「気を失ったか?」
「へ、そんなのどうでもいい、さっさと犯ろうぜ」
大柄な男はそういって少女の服を脱がせた

「ガキだと思ってたが、やっぱ女だな」
そういって男はまだ幼い少女の胸を触った
「へへ、それなりに楽しめそうだ」
「手早く済ませ、あまり長居するとやっかいだからな」
「分かってるよ、んじゃ早速・・」
と、男が少女に乗っかるように移動したとき小屋の入り口のほうから
声が響いた
「そこまでだ」


「なんだ、てめぇ?」
「少なくとも、俺たちにとってありがたい相手ではなさそうだ」
そういって男たちは入り口のほうを向いた
そこには20歳前後と思われる男が立っていた
「それ以上やるのなら少々痛い目を見てもらう」
「へ、てめぇの様な青二才になにができる」
「なら、試してみるか?」
「上等!!」
大柄な男はそういって入り口の男に向かっていった、しかし・・
「?!なんだ」
「どうした?」
「・・少し、身体の自由を奪わせてもらっただけだ」
入り口の男はそう言うと手を横に薙いだ。すると小柄な男のほうも同じように動きを封じられた
「く、貴様、魔導士か?」
「当たらずしも遠からずだ、さて、もしこのまま去るのであればよし、さもなければ・・・」
そういって今度は手のひらに炎の弾を出現させた
「少々火傷をしてもらうことになる、半端ではないほどのな」
「う・・」
「く・・わかった」
「おい、こんなやつに尻尾巻いて逃げろってのか?!」
「冷静になれ!相手は魔道士だ。ちょっとやそっとで勝てる相手じゃない」
「・・・・」
「・・・・」
「さて、結論はでたか?」
「ああ、おとなしく去るよ」
小柄なほうの男がそう言うと同時に二人の男を縛り付けていたものが外れた
「ち、覚えてろよ!」
「・・・」
大柄な男はそう吐き捨て小柄な男とともに去っていった


「さて・・・」
二人の男が去ったのを見届け、入り口に立っていた男は小屋の奥
無残にも服を脱がされた少女のところへ近づいた
「・・大丈夫か?」
「・・・・・」
「?」
見たところ特に外傷などはない、しかし少女はまるで魂が抜けてしまったかのように
男の声に反応を示さない
「・・・・」
「・・・・」
(薬、か?)
改めて少女を見るとその瞳は死んだように虚ろだった
「・・とはいえ、このままにはしておけんな」
男はそう言うと少女を担ぎ、小屋を出た



それから1時間くらい経ったころ、二人はひとつの小屋の中にいた
先ほどのようなものではなく、土台も周りもしっかりした
完璧に人の住める小屋だ
「とりあえずこれに着替えておけ」
「・・・・・」
しかし、少女は相変わらず一言も口を利かない
「・・・はぁ、こういうことは柄ではないのだが」
男はそういって少女に服を着せていった


「さて、それでは自己紹介といこう。俺の名はアルベルト、一応魔法を使えるが騎士だ」
「・・・・・・」
「・・・・・」
しかし、やはりというか少女は押し黙ったままだ
「・・・仕方ない、しばらくの間ここにいるといい」
「・・・・」
こうして彼、アルベルトと名も知らない少女との共同生活が始まった


そんな共同生活が1年ほど続き
少女、名をアリッサ・フランベルという、もある程度心を開き
事の真相を話してくれた
「・・そういうことか」
「はい・・・すみません」
「いや、誤る必要はない」
アルベルトはそういってお茶を飲んだ
「しかし、じゃあこれからどうするんだ?」
「・・正直、帰るところもありませんし、やりたいことも特に・・・」
「・・・・・」
「ここまでしていただいてなんですが、あの時放っておいてくれた方が良かったかもしれません」
「・・そうか」
「怒らないんですか?」
「・・それも一つの生き方だろうからな」
「・・・」
「大体、生きかたに正解などないのだ。あるのは結果、後悔、そしてもしかしたらという妄想だ」
「生き方に、正解はない・・・」
アリッサはその言葉を反芻した
「・・・もし、迷っているのなら契約を結ぶか?」
「契約?」
「言ったろう?俺は騎士だと。騎士は主に仕え、その身を護るものだ」
アルベルトはそういってアリッサに手を差し出した
「もし君が望むのであれば、答えを見つける日までその身を護ることを誓おう」
「・・・・」
「・・・・」
しばしの沈黙、そしてアリッサはその手をとった
「・・よろしく、お願いします」
「はい、主」



「・・・・」
そういって私の手を強く握ってくれたっけ
あれから4年も経ったんだ・・・
「・・・・・」
しかし、そのときのことを思い出してみてひとつ気になることがあった
そして私はそれを確かめるため、ベッドから起き上がった



「・・・ふぅ」
そろそろ時間か・・・
時計を見るとすでに夜の11時をまわっていた
「今日はこれくらいにするか・・」
そういってアルベルトは机の上にある紫色の小さな宝石をしまった
「さて・・・」
これから寝ようかと思ったところでドアの叩く音がした
「?主、どうかしましたか」
「・・えっと、入って・・いい?」
「・・・」
理由はよく分からないが話があることだけは分かったのでドアを開けた
「どうぞ」
「・・うん」

「それで、どうしたんですか?こんな時間に」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「・・・・あのね、アルが私の騎士になってくれたときのこと、覚えてる?」
「ええ、騎士たるもの主との契約日を忘れることは死と同義です」
「そ、そんなすごいことでもないと思うけど・・それでね」
アリッサはそこで区切り、一つ深呼吸してから続けた
「そのとき、答えが見つかるまで、っていったけど・・・じゃあ見つかったらアルはどうするの?」
「・・それは主が決めることです」
「え?」
「騎士にとって主は絶対です。あのときの契約で言えば答えが見つかればその時点で私は必要のない存在になります」
「そんな・・・」
「しかし、それまでは主の言葉は絶対になります。ですから主がその後こうしろといわれれば私はそのとおりにします」
「じゃあ、ずっと、死ぬまでずっと一緒に、っていったら一緒にいてくれるの?」
「!?・・・」
しかし、それまで冷静だったアルベルトがその言葉に息を呑んだ
「アル・・?」
「・・・・・」

(主の願いであるなら、それに従うべき、しかし・・・)
「・・私は・・」
「・・・・」
(・・いや、たとえ嘘であっても、それを望むのなら、今だけは・・・)
「主の、願いなら・・」
「・・・うん・・えへへ、よかった」
「・・・・」
「ね、じゃあ今日は一緒に寝よう♪」
「は?!」
「ずっと一緒って言ったよね?」
「・・・・」
「♪」
結局、騎士の性か性格ゆえか、断ることはできなかった



「・・すぅ・・・すぅ・・」
「・・・・・」
安らかな寝顔を見てふと思う
いったい、あとどれくらい共にいられるのか
できることならずっと共にいたい、この温もりを、この時間を失いたくはない
だが、それはわがままというものだ。感謝してもし足りないくらいたくさんのものを与えてくれたのだ
これ以上は・・・
「・・・そうだ、これ以上は未練が残るだけだ。今ならば、まだ・・・・」





俺はいつの間にか眠りにつき、夢を見ていた
周りは瓦礫の山、なにかの戦闘跡だろう
その中で、俺は血を流し倒れていた
その側で、主が泣いていた

泣き止んで欲しいと願うが、これは夢
願っても、手を伸ばしても、触れらるぬ・・夢
声を出そうとも、心で呼びかけようとも、届かない・・夢

そんな夢を見て、俺は切に願う

誰でもいい、どのような方法でもいい

どうか、主が笑って過ごせる場所を

笑いあえる友を

与えてくれ、と・・・・・



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