それは悲しい願いなの


  

第5章 本当の願い




「・・・・」
「主、なぜここに?」
「管理局の人が教えてくれたの」
その言葉を肯定するようにアリッサの背後に黒灰色の服を着た青年が現れた
「時空管理局巡洋艦アースラ艦長、クロノ・ハラオウンだ」
「クロノくんまで」
「じゃあ、シグナムたちが来たのは・・」
「僕は間接的に指令を出しただけ、正確にはグレアム提督の根回しによるものだ」
「グレアムおじさんが?」
「ああ、職を辞退したといっても彼を尊敬視する人間は少なくないからね」


ギル・グレアム提督
6年前の闇の書事件がきっかけで自主退職した人物

闇の書を封印するのはほぼ不可能、できないというわけではないが、そのためには完成した状態でなければならない
そこで、彼は闇の書を完成させ、氷結の杖”デュランダル”で凍結させてから次元の狭間に封印するという方法をとった
しかし、その方法では闇の書の主である八神はやてを犠牲にするということにもなるため
それをいち早く見抜いたクロノが説得し、見事はやてを犠牲にせず事件を解決することができた


「とりあえず話は後だ、まずはこちらを何とかしなければな」
クロノはそういってアルベルトのほうを向いた
「・・・・」
「さて、話し合いで解決、とはいかないか?」
「・・貴様と話すことはない」
「・・まぁ、そうだろうね。だから話すのは僕じゃない」
そういってクロノは傍らにいた少女の背を押した
「あ・・」
「彼女となら、話せるだろう?」
「・・・・」
「・・・・」

しばらく沈黙が続く、そしてそれを破ったのはアリッサのほうだった
「ねぇ・・どうしてこんなことしてるの?」
「・・・・」
「どうして、そんな傷だらけになってるの?何であの子達を傷つけるの?」
そんなアリッサの問いにアルベルト静かに語った
「・・・主のためです」
「私の?」
「はい、彼女たちとの戦闘はそれを妨げたから、それだけです」
「そんな?!私の願いなんていってないし、それが元で争うなんて」
「寝言で母の名を呼んでいました」
「!(赤)・・・」



「・・・ねぇ、もしかして素、かな?」
「・・だと、思う」
「はは、もうちょい女心分かって欲しいな」
「?なぁ、はやて、何だ女心って」
「んー、ヴィータにはちょお早いかな」
「えー?」
「いやいや、そんなことないよ♪お姉さんに任せなさい」
「え?わひゃぁ、ど、どこ触ってんだ?!」
「んふふ♪」
「助けて、はやて」
「痛くしないからいらっしゃ〜い♪」
などとアリアがヴィータをからかっているなか
アリッサたちは話を進めていた



「そ、それがどうしたっていうの?それと私の願いとどう関係が・・」
「母に愛されたい・・違いますか?」
「?!」
アルベルトの言葉にアリッサは目を見開いた
「分かっています、それが無理だということは。しかし、これを使えば叶えられるんですよ」
そういってアルベルトは懐から紫色の宝石を取り出した
「!ディメンションジュエル」
「そのとおり、これを使えば願いは叶う」
「だが、それを使用した場合の代償を知っているのか?!」
「ああ、人の命だろう」
「・・それを知っていて?」
「気にする必要はない、犠牲は一人だ」
アルベルトはそう言うとディメンションジュエルを掲げた
「本来はもう少し魔力が必要だったのだが、先の戦闘のおかげか・・」
「?!まさか」
「そのまさかだ、おかげで魔力は十分にたまった」
「?!」
その言葉に静かに見守っていたなのは達にも事の重大さが理解できた
魔力がたまった、それはつまり発動条件がそろったということだ

「待って、人の命を代償にする願いなんて願いじゃないよ」
「罪もない、関係のない人間を巻き込むのはだめだよ」
「そや、人様の幸せを奪って幸せになっても意味ないよ」
「・・・心配するな、捧げるのは俺の命だ」
「?!」
なのは達の説得にアルベルトは冷静に言葉を紡いだ
自らの命を捧げる、と・・・

「俺の命で主の願いが叶うなら、本望だ」
「バカな真似はやめろ!そんなことをしても幸せになんかなれやしない!!」
「騎士ならば、主を護るべきものだろう?!」
「そうだ、そんなん誰も望まねぇ!!」
「命は、そんな簡単に捨てていいものではありません!」
「・・・逃げるな!」
クロノやヴォルケンリッターもそう説得しようと試みるが
「・・お前たちはそういう結論を出したのだろう。そして俺はこういう結論を出した」
そういってアルベルトは魔法の力で生み出した剣を自らの胸に向けた
そして、静かにアリッサに別れの言葉を紡ぐ
「これで、お別れです」
「・・・・」
「今までありがとうございました」
「・・・だめ」
「私のことは忘れ、幸せになってください」
「・・できない・・・できないよ」
「・・・・失われし遺産ロストロギアよ」
アルベルトのその言葉にディメンションジュエルの輝きが増した
「その力を開放し、彼の者の願いを叶えよ」
「・・・・・だめ・・・」
「その代償として我が命を捧げる」
その言葉とともに魔法の剣はまっすぐにアルベルトの胸へと・・・

「だめぇぇぇぇ!!」

そして、あたりは眩い光に包まれた



光が収まったとき、そこには信じられない光景があった
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・なぜ?」
そこには魔法剣を胸に突き刺したアルベルトの姿はなく
変わりに魔法剣が背に突き刺さったアリッサの姿があった
そして、ゆっくりとアリッサは倒れる

「アリッサ!!」
アルベルトはとっさにアリッサの身体を支える
「なぜ、こんなことを・・・」
「・・やっと・・・呼んでくれた・・・」
「え?」
消え入るようなそれでもはっきりとアリッサは呟いた
「・・・名前・・・私の・・願いはね・・・名前を呼んでもらうこと」
「?!」
「ずっと・・・一緒にって言ったのに・・・主って・・他人行儀なんだもん」
そういってアリッサは微笑む
「それは・・・」
「うん・・・アルなりの優しさなんだよね・・・一緒にいる・・・理由になるから」
「・・・・」
「でも・・ね・・・私はそういうのじゃなくて・・・心で繋がってるって・・・思いたかったから」
「?!」
「だから・・名前で呼び合えれば・・・そう・・思えるんじゃないかなって・・・」
「ある・・・・アリッサ・・」
「・・えへへ・・よかった・・・・」
そう言って、アリッサは静かに瞳を閉じた


終章へ




 
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